やる気を引き出すのではなく
自発的に育つ環境を整える
佐々木 Googleが、社員の労働時間のうち20%を、本来の業務ではない仕事に充てられる「20%ルール」を採用しているのはよく知られていますが、これも社員に一つのきっかけを与えているのだと思います。
日々の仕事に追われ、100%の時間を使い切ってしまうと余力がなくなりますが、20%を残しておけば、その時間で自分のスキルを磨いてもいいし、好きな研究をしてもいいわけです。
土屋 会社側が、「やる気を引き出そう」とすると、社員は「やらされ感」を持ってしまうこともあります。
ある人から聞いてなるほどと思ったのですが、「Develop」という単語には、他動詞としての「育てる」だけでなく、自動詞としての「育つ」という意味があります。
つい「やる気を引き出す」とか「気づきを与える」といった押し付けになりがちですが、人材育成や変革で大切なのは社員が自発的に育つ環境を整えることだと思います。
人材育成に限らず、働く環境づくりや、働くことへの価値観の共有においても、現代は「ピープル・センタード」(社員中心)で考えることが大切です。
今井 「育てる」か「育つ」かの違いは、マネジメントとエンパワーメントの違いともいえますね。「こうしなさい」と社員を管理するのではなく、自分で気づき、前に進んでもらえるようにするのがエンパワーメントです。
社員をエンパワーするためには、社員の自己成長を支援するツールや、さまざまな成長機会を提供することが重要です。社員がそうしたツールや機会を自分で手に入れようとしても限度がありますから。
佐々木 そこに「デジタルの力」をいかに活用するかということも、非常に重要なポイントだと思います。
先ほど話した「20%の時間」も、業務のデジタル化を推し進めれば、意外に簡単につくれるのではないでしょうか。
土屋 同感です。テレワークがもっと普及して移動時間がなくなれば、空いた時間を使って「新しいことをやってみよう」と思うはずです。
テクノロジーを活用して
社員と組織の関係性を変える
佐々木 私が懸念しているのは、DXにしろ、働き方改革にしろ、何となく現場に「やらされ感」が漂っていることです。働き方改革を進めるための仕事が新たに増えて、「働かされ方改革」じゃないかと揶揄する声すら聞こえてきますし、ピープル・センタードとはいえない状況が見受けられます。
土屋 私も、佐々木さんがおっしゃるように、DXも働き方改革も、本来は社員が元気になり、より活きいきと活動するための取り組みであるべきなのに、むしろ管理するためのツールや仕組みになっているのではないかと危惧しています。
テクノロジーは、社員が「人間じゃなければできない仕事やチャレンジ」に専念できるようにするための手段であるべきです。
今井 最後に、「ポストDX時代」を見据え、日本企業が変えていかなければならないもの、受け継ぐべきものは何かということについて、ご意見を聞かせてください。たとえば、組織へのロイヤルティや帰属意識の高さをうまく活かせば、日本企業の強みになると思います。
土屋 ロイヤルティの高さはたしかに強みになりますが、ピープル・センタードの観点から言えば、会社と雇用契約を結んだ時点で、ともすれば人材が会社の資産として固定化してしまうような関係性は、変えたほうがいいのではないでしょうか。
社員と会社はあくまでも対等で、「自分のビジョンと合致するから、この会社で働いているんだ」と言えるような関係性が理想だと思います。
会社のビジョンをともに実現する仲間として自律的に活きいきと活動する社員が多い組織は、個人もビジネスもサステナブルな成長の可能性が高いと考えています。
佐々木 終身雇用は残してもいいと思いますが、年功序列は変えるべきでしょうね。先ほど土屋さんからお話があった「デジタルプロモーター」のように、年齢や役職、キャリアを問わず、フラットに関わり合える組織に変えていくべきではないかと思います。
とはいえ、すでにでき上がっているピラミッド型の組織を、少しずつフラットな組織に変えていくというのは、日本企業が今後挑むべきトランスフォーメーション(変革)の中でも、最も難度の高いテーマだと思います。
今井 おっしゃる通りですね。幸いなことに、変革を支援するテクノロジーやツールはふんだんにあるのですから、経営者がマインドセットを変え、それらを活用しながら、社員との関係性や組織のあり方を変えていくべきです。繰り返しになりますが、その時、重要になるのは、いかに社員をマネジメントするかではなく、エンパワーするかだと思います。
本日はありがとうございました。
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