【特別対談】ポストDX時代を見据えたピープルマネジメント

デジタルで人を管理するのではなく学びの環境を整え、成長を支援する

強面リーダーの「いいね!」が
コミュニケーションを活性化

今井 個人と企業が価値観を合致させることは非常に重要ですね。

土屋 価値観を合致させるには、企業として「こういう社会的責任を果たしたい」「こういう価値を提供したい」という明確なビジョンを示すことが大事です。仕事の処遇や条件ではなく、示しているビジョンが自分の価値観と合致するかどうかで、個人は会社や組織を選ぶわけですから。

今井 一方で、組織のパーパス(存在意義)やビジョンが変わってくると、そこで働く人材のマインドセットやスキルセットも変わっていかざるをえません。

佐々木 今井さんは、つねづね「DXを成功させるのはテクノロジーではなく、人だ」とおっしゃっていますが、まさに、そこにヒントが隠されています。

 テクノロジーは整っても、人材のマインドセットが適応していないと完全に無駄な投資になってしまいます。本来、組織やビジネスは人が中心であるべきですが、いまはテクノロジーが先行しすぎている傾向があります。

 そうした中で、テクノロジーに適応できる人材と、できない人材との“分断”が進んでいくことを私は懸念しています。知的好奇心はあるのに、テクノロジーを使いこなせるスキルの習得機会に恵まれない人材が増えることは、企業のみならず、社会にとっても大きな損失だと思います。

モデレーター
Ridgelinez
代表取締役CEO
今井俊哉

土屋 これはアデコグループの例ですが、若手社員を中心に、自発的に「デジタルプロモーター」というコミュニティをつくり、テクノロジーにあまり詳しくない社員のためにレクチャーを行っています。「今日は新しいデジタルツールの使い方を覚えてみましょう」といった感じで、ベーシックから中級ぐらいまでの知識を教えています。

 全国からオンラインで社員が集まり、若手も役職者も一緒になって学び、デジタルツールの利用が進むきっかけになっています。

 自発的にデジタルツールを教える社員の姿や、積極的に学ぼうとするさまざまな世代の社員の姿を見て感じたのは、一見、デジタルへの好奇心が高くないように感じられていた社員も、実際はそうではなく、学びのきっかけがなかっただけだということです。人はもともと、好奇心に満ちている存在なのだと思います。

今井 そのきっかけをつくることが、リーダーの役目ですね。

土屋 レクチャーによって、社内SNSの使い方を覚えた営業のリーダーが、若手からの報告に「いいね!」を押すようになり、チーム内に変化が生まれたそうです。

 ちょっと強面のリーダーなのですが、「いいね!」やハートマークを押すようになったことで、チームのムードがぐっと和んだそうです。硬直していた組織の中に揺らぎが生まれ、コミュニケーションが自然に活性化してきて、「新しいことをやってみようか」「チャレンジを応援しよう」という前向きな雰囲気も出てきたと聞いています。

佐々木 私も、きっかけをつくってあげることは非常に大切だと思います。

 PwCにも「デジタルアクセラレーター」という役割があって、同じように社員のデジタルリテラシーやスキルを向上させる教育を行っています。個々人のスキルアップやリスキリングの成果が表れただけでなく、これをきっかけにさまざまな「気づき」が得られるようになり、「だったら、こうしたらいいんじゃないか」というコミュニケーションが広がったことが、何よりの効果でした。

今井 有志の人たちが、自分の時間の一部を仲間の成長のために割くというのも、働き方の新しい価値だと思います。教える側の人たちにも、達成感や喜びがあるはずです。

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