日本でも生まれつつあるDX先進事例
カイゼンではなく変革を目指す
データ分析・活用については、まだ道半ばの企業が大半だが、日本でも先進的な事例が出始めている。野村氏は、その一つとして、富士通が現在取り組むDXを挙げる。具体的には、データドリブンマネジメントの推進であり、従来のマネジメント指標に加え、DXの推進活動をさまざまな軸で評価する取り組みにチャレンジしている。
「DXというのは未知の領域に踏み出すことであり、既存のPL(損益計算書)などから抽出したKPI(重要業績評価指標)は通用しません。販促キャンペーンが売上増につながるといった直接的な因果関係ではなく、むしろ『風が吹くと桶屋が儲かる』といった一見無関係な形で効果が表れます。DXの効果測定では、取り組みの効果を確実に評価できるKPIを新たに設定したうえでモニタリングし、ダメならすぐに次の手を打つアジャイルな進め方が必要です」(野村氏)
従来のように綿密な計画を立てて、一度決めたら最後までやり遂げるプロジェクトエンジニアリング的な発想とはむしろ正反対の、アジャイルピボット的なアプローチを富士通は取っている。その点が新しく、なおかつ効果を期待できると野村氏は説明する。
「自社のDXの成果を適切なKPIによって可視化し、それをモニタリングしながら次のアクションにつなげる。こういったデータサイエンスの応用に富士通は挑んでいます。DXに挑戦しようとする企業は、こうしたKPI重視のマネジメントに注目してほしいと思います」(野村氏)
一方で渡瀬氏は、「誰も見たことのない新しい事業だけがDXではない」と付け加える。
「大手製造業をはじめとした日本企業では、カイゼンやコミュニケーション強化といった形での業務改革に長く取り組んできました。これには多くの人手や工数が必要になるため、多大な費用がかかっていましたが、最新のデータテクノロジーを活用すれば、大幅なコストダウンが可能になります」(渡瀬氏)
デジタル活用によるコストダウンの効果は大きく、一挙に4割削減などということも可能であるという。そこまでドラスティックにコスト構造を変えることができれば、単なるカイゼンではなくこれもDXの一つのあり方といえる。
DXは、「カイゼン」ではなく「変革」だ。短期的な視野でリターンを求めると、小さな課題解決に終始してしまう。自社のビジネスや業界の置かれている状況を俯瞰し、的確に分析したうえで、まずは業務プロセスの改革に着手するのか、あるいは顧客体験(CX)の向上を優先するのか、ビジネスモデルの変革に挑むのか。どの領域からデジタル活用を本格化するかという優先順位を明確にすることが、「自社にとって実りあるDX」への早道になるだろう。