*Claris International CEOインタビュー
「アジャイルな組織は失敗を学びに変え おのずから変革し続ける」はこちら
健康志向や本物志向に応えるハム・ソーセージ・ベーコンなどを製造する信州ハム(長野県上田市)。20年以上使い続けた生産管理システムの更新を迫られた同社は、現場のニーズにかなったシステムを構築するため、ITベンダーに頼らず内製化に挑んだ。その結果、生産現場の作業効率の改善だけでなく、各工程における歩留まりの「見える化」、意思決定のスピードアップなど、さまざまな成果が得られた。
安心・安全を追求する
創業70年超の加工肉製造業
信州ハムは、戦後間もない1947年に設立され、ハム・ソーセージ・ベーコンなど加工肉全般を製造する準大手メーカーとして、70年以上の歴史を歩んできた。
代表的な商品は、1975年に発売した「グリーンマーク」シリーズである。発色剤・着色料・保存料・リン酸塩などを入れず、自然な味を追求した同シリーズは、今日の健康志向を先取りして45年以上のロングセラー商品となっている。
「信州ハムの名前を知らなくても、『グリーンマーク』を知っているお客様は多く、安心・安全な加工食品のパイオニアとして、誇りを持っています」と語るのは、同社執行役員生産本部副本部長兼社長室室長の小口昇氏である。
また、本物の味にとことんこだわった「爽やか信州軽井沢」シリーズは、ハムは7日間以上、ベーコンは5日間以上、ソーセージは3日間以上かけてじっくり熟成し、加工肉ならではの旨味を存分に引き出した商品である。
この2つのシリーズを中心に、300以上の自社ブランド製品を展開するほか、大手スーパーや生協のPB(プライベートブランド)商品を受託製造している。信州ハムの確かな製品づくりや味へのこだわりは、多くの小売業者からも高く評価されていることがわかる。
保守期限が迫る中
システムの内製化を決断
品質がよく、安心・安全な加工肉製品を生産するために、信州ハムは20年以上前から生産管理システムを活用してきた。しかし、ソフトウェアの保守期限が迫ったため、2014年にシステムを全面刷新することを決断した。
「ITベンダーに見積もりを依頼したところ、基幹システムを刷新すると数億円かかると言われました。製造現場にとって生命線ともいえるシステムではあるものの、さすがに金額が大きすぎて躊躇せざるをえませんでした」(小口氏)
しかし、更新期限は刻一刻と迫っている。何か打開策はないかと思案していたところ、システムの導入・運用を担当するグループ会社、信州ハム・サービスの取締役開発本部長・土屋光弘氏から、「FileMakerを使って内製してはどうか」という提案を受けた。
土屋氏は、1990年代頃からFileMakerをデータベースとして使った経験があり、プログラミングの経験がなくてもシステムをローコード開発できるプラットフォームであることを知っていた。
「提案の前にFileMakerのカンファレンスに参加したところ、iPad上で使えることや、他の食品加工会社がFileMakerで内製したシステムを活用していることを知り、これなら自分たちにもできるのではないかと直感しました」。土屋氏はそう振り返る。
内製化すれば、開発費用は社内の人件費だけで済むし、プラットフォームのライセンス料やインフラ導入費用を合わせても、開発を外注するよりはるかに安く抑えられる。
報告を受けた経営陣は当初、「本当にできるのか」と半信半疑であったが、土屋氏は試しに簡単なアプリケーションを自作、実際にiPad上で動かしてみた。すると、まったく問題なく動き、テストに参加した生産現場の担当者からも「使いやすい」と評判だった。良好な検証結果を得られたことから、正式に導入することが決定した。
土屋氏は、ともにシステムを内製化に取り組む“相棒”として、信州ハム生産管理部主任の織部航氏に声をかけた。織部氏はVBA(プログラミング言語の一種)でのプログラミング経験があることに加え、生産現場のリーダーの一人として、現場におけるシステムのニーズを熟知していた。それが同氏に白羽の矢を立てた理由だった。
「外部に開発を依頼すると、予算がかかるだけでなく、どんなに綿密に要件定義をしても、現場のニーズにそぐわないシステムになってしまうおそれがあります。そうしたリスクを回避するためにも、現場の業務や課題をよくわかっている自分たちがつくったほうが、よりよいシステムを開発できるのではないかと考えたのです」と土屋氏は語る。