販売の主力窓口はEC、ブランド構築の場が店舗

株式会社 虎の穴
鮎澤慎二郎 取締役鮎澤慎二郎(Shinjiro Ayuzawa)
虎の穴 取締役/ユメノソラホールディングス 取締役
2002年4月に虎の穴入社。個人出版物の営業担当として個人クリエイターとの交渉を実施。年間1000人以上のクリエイター営業を行い、同社にて総取引量でナンバーワンとなる。05年10月から該当事業の統括。19年からユメノソラホールディングス取締役に就任。20年に虎の穴 COOに就任。経営計画の策定および執行を実施。長年培ってきた経験から、クリエイター支援を軸に新たなビジネスプランの検討・構築に加え、外部とのアライアンス交渉を担当している。

 同社の事業の柱となったECはクリエイターにも、読者にもメリットをもたらす、と鮎澤取締役は話す。

「当社は約10万人のクリエイターさまに登録していただいており、ECで常時扱うアイテム数は同人誌だけでも通常だと10万点(年間では2000万冊以上)です。ただ、個々の同人誌は50部、100部という小ロットのものがたくさんあり、実店舗では置けないものも出てしまいますが、ECであれば、小ロットであっても全国の読者に届けることができます」

 だが、ECでは“自ら同人誌であふれる空間に足を運んで、好みの同人誌を探し当て、手に取って作風を確かめる”という同人文化の重要な体験が再現できない。以前なら、それがEC化拡大の障害になることもあったが、「今はクリエイターさまがSNSやウェブなどで事前に作品の一部を公開しているので、読者はそれを見て、この作風なら買いたいと判断するなど、創作と発見がオンライン化してきています」(鮎澤取締役)    

 だからといって、同社は店舗の役割は終わったと判断しているわけではない。吉田代表取締役は、「同人誌を知らないお客さまが実物に触れる場、新規顧客の導入口として店舗を位置付け、既存の店舗とは異なる基準、異なる事業モデルで、今まで手を出していなかった地域を含めて出店していきたい」と話す。

茨城県つくば市にあるWonderGOO つくば店内のインショップ「とらのあな出張所 in WonderGOOつくば店」。リアルで同人誌に触れられる場所を今後も増やしていく予定だ茨城県つくば市にあるWonderGOO つくば店内のインショップ「とらのあな出張所 in WonderGOO つくば店」。リアルで同人誌に触れられる場所を今後も増やしていく予定だ
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 出店は、他社の店舗の中にショップを構える「ショップインショップ」という形態が中心となり、顧客属性の近い企業と提携することで、互いの集客力をシェアしていく戦略を採用する。

 すでに愛知・豊橋市の精文館書店豊橋本店内の「とらのあな出張所 豊橋店」、東京・立川市のオリオン書房アレア店内の「とらのあな出張所 in オリオン書房アレア店」、静岡・静岡市の「とらのあな出張所 in 駿河屋静岡本店」、茨城・つくば市の「とらのあな出張所 in WonderGOO つくば店」の4店舗(21年4月29日現在)がオープンした。ショップインショップ展開には、吉田代表取締役の原体験が背景にある。

「宇宙戦艦ヤマトや初代ガンダムがはやっていた頃、小学校5年生だった私は、友達に連れられて新宿の小さなイベント会場へ行き、初めて同人誌の存在を知りました。作家さんが一生懸命売っている薄い本を開くと、丁寧に描き込まれた絵や、自分では考えもしなかったIFストーリーが描かれていて、創作文化と、オンリーワンの創作物の発見の驚きや楽しさのとりこになりました。その経験価値を再現していきたいと思っています」(吉田代表取締役)