今年は蒸し暑い梅雨入りが早く、夏の暑さも例年厳しさを増している。感染症対策のためのマスクもしばらく取れそうになく、入念な熱中症対策が必要になりそうだ。配送業や映画撮影など、夏に過酷な環境となる現場を抱える企業では、熱中症対策として新たな飲料を導入しているという。
2020年の職場における
熱中症の死傷者は959人
新型コロナウイルス感染症が拡大してから2年目の夏を迎える。配送や建築現場のような屋外や、工場のようにエアコンが効きにくい現場では、今年もマスクの着用によって、暑さがより厳しく感じられることだろう。
国土交通省では、感染症拡大防止対策をして働く建築現場の真夏日を「日最高気温(にちさいこうきおん)が30度以上の日」から「28度以上の日」に引き下げた。マスクなどをして働くと、気温が低めでも熱中症にかかりやすくなるからだ。
熱中症が起こるメカニズムはこうだ。身体の中では「産熱」と呼ばれる身体が熱を作る働きと、身体の外に熱を逃がす「放熱」という働きが常に起きている。通常は産熱と放熱のバランスがとれているため36度~37度の体温に保たれているのだが、発汗による体温調節が追いつかなくなると熱中症になる。
そこで熱中症対策では、送風機やスポットクーラー、空調機能付きの作業服のように外から冷やして外部温度を下げる方法と、発汗によって失われた水分や電解質(イオン)を補給することで内部温度を下げる方法が有効とされてきた。
熱中症は高齢者や子どもだけの問題ではない。職場においても毎年熱中症が発生しており、重篤化して死亡に至る事例も少なくない(2020年の職場における熱中症の死傷者959人、うち死亡者は22人:厚生労働省調べ)。そこで厚生労働省は2021年度も「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」を実施して、熱中症予防の啓発に努めている。
新たな熱中症対策として
注目されるアイススラリー
熱中症が一般に日射病と呼ばれていた頃から啓発活動に熱心だったのは、1980年にポカリスエットを発売した大塚製薬だ。1991年日本体育協会(現日本スポーツ協会)と「スポーツ活動における熱中症事故予防に関する研究班」との取り組みを通じて、「スポーツ活動による熱中症事故の実態調査や熱中症の基礎的研究を行うとともに、科学的な根拠を背景に、熱中症啓発活動を通じて、生活者に対して熱中症の認知と理解の普及を続けています」と大塚製薬 ニュートラシューティカルズ事業部の只野健太郎氏は振り返る(以下、大塚製薬の全てのコメントは只野氏)。
その大塚製薬が新たな熱中症対策として提案しているのが、活動前に体の内部の温度(深部体温)を冷やしておく「プレクーリング」という考え方だ。プレクーリングに有効といわれているのが「アイススラリー」という飲料。聞き慣れない名前だが、活動前に飲むと深部体温を下げ、その後の体温上昇を抑制する効果が期待できる。
只野氏は、アイススラリーの仕組みをこう説明する。
只野健太郎 課長
「アイススラリーは微細な氷と液体が混ざり合っている流動性のある飲料のことで、水分補給と体の冷却が同時にできるという特徴があります。アイススラリー中の氷は微細であるため、固形の氷に比べると周囲との接触面積が大きくなり、熱を奪いやすいためより効果的に物を冷やすことができます。加えて、通常の氷のように噛み砕いて飲む必要がなく、そのまま口から胃、消化管を通りながら、からだを内側から効率よく冷やすことができるのです」
フローズンドリンクやスムージーのように氷を細かく砕くことによって流動性を持たせたものとは製造方法が異なる。大塚製薬では、常温保存が可能な液体を「凍らせてスラリー状にする」技術の開発に成功したことで、一般に販売できるようになった。