熱中症の発症件数が
年間60%減少した事業所も
発電所をはじめ、各種プラント等の建設・メンテナンス工事を手掛ける太平電業は、主に保守工事の場で熱中症対策を講じていた。熱を持つ運転機器周辺の作業やダクト内での業務では、作業員の体内に熱がこもりやすい状態となるからだ。
これまでは、主にクールベストや空調服の着用をメインに、イオン飲料の摂取を推奨していたが2019年、安全部の新田範善部長はプレクーリングという考え方を知った(以下、太平電業のすべてのコメントは新田氏)。さっそくプレクーリングに欠かせないアイススラリーを導入したところ、
「熱中症の発症件数は、軽度も含めて前年の17件から20年は8件と、60%も減少させることができました。全国約110の建設所・事業所、協力会社も含めると約7000人となる全作業従事者に対して、作業開始前や休憩時間など毎日最低2回は摂取できるよう、アイススラリーを支給していきたいと考えています」
同社では熱中症対策として「コップ一杯運動」を展開していて、朝礼と昼礼後はもちろん、現場に入る前は必ずコップ一杯の水分を補給するように指導している。
「アイススラリーは、飲んだ瞬間から体が冷える実感が得られるので、作業員から好評です。特に暑い現場に入るようなときは水分と電解質を含むイオン飲料と共に自主的にあらかじめアイススラリーも飲んでもらっています。休憩所は空調が効いていますが、そこに長時間いることはできません。アイススラリーなら冷凍庫から取り出すだけで簡単にクールダウンができ、味も美味しくて飲みやすいので重宝しています」
各企業の例を見て分かるように、アイススラリーは暑熱労働環境下で働く人たちから、高く評価されている。
温暖化により夏の気温上昇傾向が続いており、コロナ禍が続く環境下では、熱中症リスクは一段と高まる。大塚製薬の只野氏は、「社会を挙げて熱中症対策を取り組んでいくことが不可欠」と話す。
「コロナ禍によって外出自粛が続き、暑さに慣れる力が弱っています。活動量が減って筋力が低下すると、水分を体内にとどめておく機能も弱まります。これまで以上に熱中症の危険性が高まっていることから、当社では教育現場への熱中症教材の提供、関係省庁と連携した情報発信、自治体と共同した高齢者への熱中症対策の推進といった公的な活動に加えて、小売事業者への熱中症対策アドバイザー資格の取得サポートに至るまで、多角的な活動を展開し社会全体を巻き込んで熱中症事故防止を推進していきたいです」(只野氏)
来年もしくは再来年、コロナ禍が収束したとしても、熱中症対策の手綱を緩めることはできない。プレクーリングのツールとして手軽に飲めるアイススラリーに対する期待は大きい。