つまり、「ストーリー」への参加(体験)につながるトリガーやその後の導線作りが、インタラクティブなクリエイティブの鍵であるということだろう。それは先に述べた「共創」をデザインする際にもヒントとなりうる考え方だ。大きな意味での“ゲーム(参加性のある物語)作り”がクリエイティブの役割となるという考え方は説得力がある。
同セッションでは水口哲也氏(水口クリエイティブオフィス代表)も、AKB48の総選挙や初音ミクを例に挙げつつ、ゲームデザイン的観点からコメント。「(そういった物語文脈に誘うことで)エンゲージメントは成立するのでは? 選択肢を狭めることで気持ちよく参加してもらうのはゲームの作法」と述べた。
だが、一つ気がかりなことがある。「ゲーム(参加性のある物語)」はコミュニティ(ファンの集い)の形成に寄与する。そこでのエンゲージメントは強固であり「365日」のコミュニケーションが可能となるが、そのぶん狭く閉じやすいともいえる。つまり「360度」の展開を得意とする従来型のインダストリーは、そこにある“溝”を直視せざるをえないということだ。
ここにコミュニケーションデザイン(360度)とコミュニティデザイン(365日)のギャップが生じる。若年層にも大きな物語をほしがる」気持ちが強くなって来ているという話を、昨今色んなところで彼ら自身から耳にすることが増えて来たが、その溝を埋める装置としての「物語」とは何だろう? そこへのアプローチを考えるセッションもあった。
セッション「マス・ソーシャルから生まれる最適キャンペーンとは」(写真)で興味深かったのは、鹿毛康司氏(エステー/執行役 宣伝部長・クリエイティブディレクター)のコメントだ。
鹿毛氏は昨年話題になった「ミゲル君」のコマーシャルなどを例に挙げながら、「CMの作り方も変わって来た。90%くらいのCMを目指しており、謎の部分を残しておくことで、視聴者が何か言いたくなったり、調べたくなるのがポイントでは?」と発言し、自ら手書きしたキャンペーンの“タイムライン(シナリオ)”を披露。それはマスメディアとソーシャルメディアを行き来しながら、ムーブメント化する物語のラフスケッチだった。