デザイン御朱印で“御朱印ファン”をターゲットに

 私は京セラ創業者の稲森和夫さんをとても尊敬しています。稲盛さんの言葉の中で好きな言葉があります。

 それは、稲盛さんがある会合に参加したとき、参加者から「京セラさんは研究開発に失敗したことがないというが、信じられません」と質問されたときに発した「それは簡単なことです。いったん決めたことは、成功するまでやめない。それだけのことです」という言葉です。

 2018年の初詣の後はさらにこの言葉を心に刻み、前を向いて成功するまで絶対にあきらめないと決めました。そして、初年度になぜ思うように参拝客が来なかったのかを考えました。

 考えられる理由はいくつかありましたが、何よりも大きな原因は私自身の考えの甘さでした。ホームページを作って、チラシを配りさえすれば、それなりに人は来てくれると思っていたのが大きな間違いでした。

 初詣期間も終わった2月初旬からさまざまな人にヒアリング調査を始めたところ、ホームページの内容やチラシのデザインは素晴らしいと言ってくれました。しかし、1度も行ったことがない寺にチラシ1枚見ただけで「行こう」とは思わないと口々に言われたのです。

 まさに、私に欠けていた視点でした。

 初詣の時だけ“来て”と呼びかけても来てくれないんだと気づきました。経営学では顧客ロイヤルティーと言いますが、年間を通してお寺に来るような接点をいくつか作りあげることによって、お寺側と来てくれる参拝者の方との良好な関係ができあがり、じゃあ初詣もあそこに行こうかとなるのです。

 そこで、来年の初詣を迎える前に、どうにかしてお寺に来ていただき、愛着を持ってもらう方法はないかと考えました。

 熟考した末、思い至ったのが御朱印でした。御朱印に決めたきっかけは「Googleトレンド」でした。寺社仏閣で扱っている授与品で何が注目されているのかを確認すると、2016年ごろから御朱印が非常に伸びていたのです。

 そこで、御朱印について調べてみると「御朱印ブーム」という記事が何本も見つかりました。特に女性の間で寺社仏閣を回って御朱印を集めることが一大ブームになっており「御朱印ガール」という言葉も生まれていました。

 御朱印自体も昔ながらの御朱印とは違い、デザインにこだわったものが生まれていて、非常に人気となっていました。また、御朱印ファンの間ではインスタグラムに御朱印を投稿することもはやっていました。このデザイン御朱印とインスタグラムを用いることで、お寺に来ていただける方を増やせるのではないかと考えた私は、新たな御朱印制作に取り掛かりました。

 このとき大事にしたのは、埼玉厄除け開運大師の独自性です。観光地ではない熊谷にわざわざ遠方から足を運んでもらうには、他にはない御朱印である必要があると思ったのです。ですから他の寺社仏閣の人気のある御朱印をまねしてもダメだと思いました。

 最終的に過去に一度、寺で記念品として作ったことがあった切り絵御朱印に再着目しました。切り絵御朱印に着目した理由は、イノベーションの御朱印であると思ったからです。イノベーションを定義した経済学者のヨーゼフ・シュンペーターによれば、イノベーションの前提となるのは「新結合」。新結合とは、既存のもの同士の思ってもみなかった新しい組み合わせで、新たなアイデアやプロダクトを生み出すことです。

 まさに日本の伝統工芸である「切り絵」と「御朱印」を結び付けた「切り絵御朱印」はイノベーションであると思いました。今でこそ、当寺の影響で切り絵御朱印を授与するところは増えましたが、当時「切り絵御朱印」と銘打って授与しているところは一つもありませんでした。

次のページ

アナ雪ブームも味方につけた

TOP