日本のすみずみで長年親しまれ、地域の礎となって来たお寺や神社。観光名所を除いてその多くは、資金難から存続の危機にある。ELternalの小久保隆泰代表取締役社長CEOは、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)の入山章栄教授の教え子にして、自身がお寺の代表役員であり、お寺や神社のイノベーションや地方創成を目指す。「マンションタイプのお墓」や「スワロフスキー御朱印」など、同社が大胆な改革を手掛けた東京・谷中の観音寺で行われた、小久保CEOと入山教授の2人の対談の前編をお届けする。(構成/奥田由意)
入山教授のWBS教え子が
お寺を再建、「お寺のDX」のために起業
入山章栄 日本中の寺社が縮小する中、お寺に大胆な改革を仕掛けるユニークな企業があります。その企業、ELternalが支援する東京・谷中の観音寺で、具体的な改革例を見ながら、ELternal代表取締役社長CEOの小久保隆泰さんにお話をうかがいます。小久保さんは早稲田大学大学院ビジネススクール(WBS)の「教え子」なんですよね(笑)。
小久保隆泰 はい、ご無沙汰しています。
入山 小久保さんは2020年3月にWBSを修了され、同7月に会社を創業されました。実家のお寺の経営を立て直した経験を広く生かせないかと起業されたそうですね。
今後20年で寺社の4割が消滅する
「お寺のDX」でチャンスを捉えて転換を
小久保 日本の寺社仏閣は、お寺が7万7000軒、神社が8万軒、合計16万ほどありますが、今後20年で4割が消滅するといわれています。しかも、16万のうち4割が年商300万円以下なんです。
入山 このまま放っておくと絶滅する。
小久保 そうですね。寺社仏閣が置かれている現状は非常に厳しいです。一方でこんなデータもあります。トリップアドバイザーという旅行の口コミサイトでは「外国人に人気の日本の観光スポットランキング」トップ10のうち6つが、伏見稲荷や清水寺などの寺社。トップ30のうち半数が寺社でした(2017年)。
寺社は観光資源として圧倒的な魅力があります。日本市場全般が縮小する中で、海外の人を呼び込むことは急務です。新型コロナウイルスの感染収束後には、インバウンド観光の回帰が期待できます。すでに海外の観光客の圧倒的な人気を誇る寺社仏閣を改革したら、もっと可能性を引き出せるのではないかと思いました。
もう一点、高齢化社会で、2040年までは亡くなる人が増え続けることがわかっています。お葬式やお墓の需要が増えるので、お寺ビジネスは成長市場といえます。不確実な未来で、確実に読めるのは人口動態だけだと経営学者のピーター・ドラッカーも言っています。この2点から、寺社には大きな潜在的なマーケットがあると考えられます。
入山 お寺の一番の課題は何ですか。
小久保 檀家の減少です。お寺の経営は、葬儀や法事などを行った際、檀家から得られるお布施で成り立っていました。しかし、少子化で檀家の絶対数が減り、葬儀や法事も減少したため寺院の収入は減っています。中には副業しないと経営が立ち行かないお寺も出てきています。しかも、40年遅れているといわれている業界です。ただ、先ほどお話したように寺社業界には大きな潜在的なマーケットがあります。だからこそ、逆に改革するチャンスがあるのです。
入山 お寺のDX(デジタルトランスフォーメーション)ですね。
小久保 私たちは「お寺のDX」を掲げていますが、先生が説かれているように、デジタルはあくまで手段で、イノベーションを起こしたいのです。ビジネススクールの同期で、総合商社出身の宇佐見彰太CFOが、社会課題解決を主軸に据えた事業をベンチャーでやりたい、お寺はイノベーションが起きそうな場所だと考えていたため、意気投合して一緒に起業しました。