トヨタを日本製鉄が提訴。
知財の「守り」も難度が上昇

 もちろん、日本企業にとって知財戦略は以前から大きく、重い課題ではあった。特に、生み出した技術やサービス、商標などを特許や商標登録で保護する「守り」については、大手企業を中心としてすでに相当の経験が積み重ねられている。

 とはいえ、自らは特許を保有するのみで、それに基づく事業を行っていない海外のパテントトロールに狙い撃ちされる日本企業はいまだに出続けている。“被害”はスタートアップやベンチャー、新規事業に乗り出す中小企業にまで及んでおり、彼らに特許権侵害を警告してくる相手が国内の大手企業であるというケースも増えてきた。

 21年10月、長きにわたって盟友と目されてきたトヨタ自動車(および中国・宝山鋼鉄)を日本製鉄が無方向電磁鋼板の特許を巡って提訴した。この“事件”で再認識させられたのは、知財が、日本代表クラスの企業でさえしのぎを削り合う分野となっている現実だった。

正林国際特許商標事務所
正林真之
所長(弁理士)

 正林所長は、「小規模・中堅クラスはもちろん大手でも、日本企業は『守り』の知財でさえ、さまざまな課題を抱えています。そんなところに東証がコーポレートガバナンス・コード改訂で、『守り』だけではなく『攻め』の知財についてまで取り組みの推進を求めてきた形です」と語る。正林所長によれば、「攻め」の知財戦略とは「知財をマネタイズしたり、攻撃武器として企業価値を高めるための戦略」のこと。

「企業の知財戦略の『守り』と『攻め』は、オペレーションとイノベーションと言い換えることもできます。企業の中にも、かつてのホンダのように、経営を担当する藤沢武夫の本田技研工業と、技術開発を担当する本田宗一郎の(旧)本田技術研究所という、オペレーションとイノベーションの組織を両方持っているところが多いでしょう。 

 知財にも似たようなことがいえて、特許を例とすれば、開発した技術について特許を取ってその技術に係る事業を守っていくのがオペレーションの知財で、すでにある特許やこれから取得する特許のマネタイズや武器化を進めていくのがイノベーションの知財。『稼ぐ』ために知財を積極的に活用していくのがイノベーションの知財戦略であり、『攻め』の知財経営です」(正林所長)