オペレーションの知財
イノベーションの知財
正林所長が先に名を挙げたアップルはイノベーションの知財を最大限に実践している企業の代表格だ。技術やデザインからサービス、ブランドイメージにまで至る幅広い知財を企業価値の最大化に向けて戦略的に活用している。
一方、日本企業の多くはイノベーションの知財、『攻め』の知財に存分に踏み出せていない。大手メーカーなどの中には、特許などを保有する知財は多いものの、実際に事業以外のところに活かしているものはその一部にすぎないということで、「知財戦略お粗末」企業も少なくない。
また、BtoB業種であるといった制約から、国内外での知名度が低く、稼げる技術・稼げる知財を持って実際に稼いでいるのにもかかわらず、それが企業価値(株価)に反映されていない企業も珍しくない。アップルが、同社自身というよりファンやユーザーによって築かれた“アップル神話”によってブランドイメージをいっそう高めているのとは対照的でさえある。
「日本の会計制度ではこれまで知財が評価の対象になってきておらず、特許からブランドイメージまで、財務諸表に載っていない価値は、M&Aなどの際にのれん代という曖昧な形で数字に表される程度でした。しかし、アップルや東証のコーポレートガバナンス・コード改訂からも分かる通り、今では知財が企業価値として評価されることが一般的になりつつある。企業では知財部門はもちろんのこと、財務・企画部門、そして経営者までが対応を求められるようになり、どこも苦慮しているようですね」(正林所長)
知財戦略・知財経営に自前主義で取り組むのは危険である
日本企業においても企業価値の最大化が経営の最優先課題の一つとなった今、オペレーションによる安定成長だけでは投資家の期待に応えることは難しい。経営に求められているのは、現在の延長線上にある未来ではなく、それを上回る未来をもたらすイノベーションだ。その実現に向けて、「攻め」の知財戦略というのは、取り組んだ方が有利だという域を超え、取り組まないと勝てないというレベルの必要不可欠なものになっている。