コロナ禍によるオンライン消費へのシフトや、インバウンド需要の消滅とともに、テナントの抜けが目立つ商業ビルやショッピングセンターが増えてきた。地方はもちろん、渋谷や銀座といった東京の一等地でも状況は同じだ。しかしそんな中、デジタルとリアルを融合し、顧客の新しい体験価値を提供する空間を生み出し続ける、注目の企業がある。外資系ラグジュアリーブランドから大手ショッピングセンター、さらに多種多様な業種からの依頼が絶えない革新的なその企業の取り組みに迫った。
アパレルが抜けたフロアをクリエーターの集う空間に
渋谷のスクランブル交差点から北に向かい、NHK放送センターや代々木公園に至る渋谷区神南。日本の若者文化の最先端を象徴するエリアだが、ここにも“衰退の波”が押し寄せている。
「路面は辛うじて店舗が埋まっていますが、商業ビルの2階以上は空きが目立ってきました。コロナ禍でビジネスが厳しくなり、退去するテナントが増えているのです」
そう語るのは、ここ神南にオフィスを構えるブランディングデザイン会社、DRAMÉ TOKYO(ドラミートウキョウ)代表取締役の真榮城徳尚(まえしろのりたか)氏である。
真榮城徳尚(まえしろのりたか)氏 上海同済大学大学院卒。一級建築士事務所、UDSを経て、2020年ドラミートウキョウ入社。8カ月後に同社代表取締役に就任、就任以降はディスプレーデザイン分野に加え業態開発、不動産企画を主軸としたプロデュース部門を立ち上げ、事業の企画構想から建築、内装、ディスプレーデザインまで、空間を用いた新業態の開発を一気通貫で行う体制づくりを行う。
“巣ごもり”によってリアル消費からオンライン消費へのシフトが加速。かつては店に入り切らないほど押し寄せた訪日外国人のインバウンド消費も消滅し、高額な賃料に耐え切れなくなった店舗が次々と退去していった。
「突然、賃料収入を失った商業ビルのオーナーたちも困惑しています。そんなオーナーの一人から、『有名アパレル店が退去した2階スペースを、丸ごと“新しい空間”にしてもらえないか?』という相談を受けました。別のテナントを呼び込むための箱をつくっても、また退去してしまうかもしれません。そこで、外から来る消費者に頼るのではなく、地元で活躍するクリエーターたちに集まってもらえるような空間にしたいと考えました」(真榮城氏)
こうして誕生したのが、「SLOTH」(スロス、東京都渋谷区神南)というコワーキングサロンだ。アパレル店がフィッティングルームとして使用していたスペースをウェブ会議室に、レジカウンターはしゃれたバーカウンターに変えるなど、居抜きで用意された空間に工夫を凝らし、クリエーターたちがくつろぎながら会話をしたり、アイデアを交したりするスペースとしてよみがえらせた。
真榮城氏は、「『いかに集客するか?』というマーケティングの発想ではなく、『どんな場をつくれば、来る人に楽しんでもらえるのか?』という発想を優先して、企画・コンセプト作りから空間デザインまでを行いました。訪れる人の感性に訴え掛ける“右脳ドリブン”のアプローチです」と説明する。
まずは空間の魅力で人を集め、次にマネタイズを考える。この独自のアプローチによって、リテール(小売り・流通)の変革や、新たなまちづくりを支援しているのがドラミートウキョウである。