研修のトレンドは、階層別研修に加えて、選択型も

――研修についてのトレンドも変化しているということですね。ちなみに櫻井さんの言う「階層別研修」と「選択型研修」を詳しく聞かせてください。

櫻井 はい、階層別研修とは、会社が意図的に“この役職や役割になったときに受講してもらう”とセットするもの。選択型研修とは、どのような研修をいつ受講するかを、基本的に社員に委ねているものです。トレンドとしては選択型のニーズが高まっていて、導入する企業が増えています。経団連が2020年に行った調査結果によると、社員の能力開発のための研修プログラムについて、4割の会社が「社員の自発的な意思で受講するプログラムを拡充する」と回答しています。しかし、冒頭申し上げた合理性を踏まえると、もっと割合が増えていくべきと思っています。ただ、新たな選択型研修を導入することは人事にとってもパワーがかかるため「研修は従来どおり階層型研修だけをやっておく」そんな企業も多いのではないでしょうか。

三坂 確かに、会社よりも個人の方がビジネススキルの必要性を強く認識するようになってきたのを感じます。年功序列や終身雇用が崩れて、転職やキャリアチェンジが当たり前になり、ジョブ型人事制度の導入が増え始めた今、持ち運びができる“ポータブルスキル”への意識が高くなっている。

 代表的なスキルとしては、思考力やプレゼンテーション、そして最近は、会議やチームを束ねるファシリテーションのスキルの人気が高くなっています。オンラインでの業務が増えたことで、コミュケーション力への比重が高まっているからだと思います。

日本型人事制度の終焉で注目を集める、キャリア自律のために必要な選択型研修とはHRインスティテュート代表取締役社長 シニアコンサルタント 三坂健氏。
慶應義塾大学経済学部卒、損害保険会社を経てHRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツの開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングにて活動している。

 例えばロジカルシンキングなどは、かつては管理職やリーダー層が学ぶものだったのですが、今は新入社員から50、60代の方までが学ぼうとしている。人生100年時代になって、雇用が延長され、ファーストキャリアとセカンドキャリアの次に、トリプルキャリアを考えなければいけない時代になっている。ビジネススキルを学ぶ年齢の幅も広くなっていて、ピンポイントで学べる選択型の研修はそのニーズにマッチしていると思いますね。

――とはいえ、自律的にビジネススキルを学ぼうとする人の割合は、それほど増えていないという現状もあるそうですね。

櫻井 確かにその数はまだ多くありません。当社の調査(※)によると、1年以上にわたって何かを継続的に学んでいる人の中で、最も熱心に取り組んでいる領域の1位はスポーツ・健康で33.1%、次いで語学が21.7%、ビジネス知識・スキルは3位で16.2%でした。その16.2%という人たちの学ぶ頻度を調べたところ、週1日以上学んでいると答えた人は72.2%いました。環境の変化に敏感な方は、積極的にビジネススキルを習得しようとしていますが、その一方で、ビジネススキルを積極的に学ぶ機会もなく、取り残されている人も多いことが分かります。人生100年時代において、継続的に学ぶことの重要性を、これまで以上に企業も伝えていき、働く個人も強く自覚していくべきだと思っています。

三坂 人がスキルを身に付けようとするきっかけの一つに「できない」という認識を持つことが挙げられます。語学と違って、ビジネススキルは実際にスキルを必要とするシーンに直面しないと”できない”という実感を持ちにくい傾向があります。キャリアビジョンを具体的に描き、現状とのギャップを認識することができれば到達するためにビジネススキルが必要だと考え、学ぶ人が増えてくると思います。

 個人がキャリアを自律的に選択することを、キャリア自律といいます。日本では、会社が決めた職務や配置で働くことが多いのですが、自分で自分をマネジメントするセルフオーナーシップを高めることは、そのキャリア自律を実現する上でとても重要になります。

※ 引用:リクルートマネジメントソリューションズ提供コラム「社会学びを継続していくためにカギとなることは何か?」より