野菜の100%
国産化を実現

 03年、米濵名誉会長(当時社長)は役員定年制に従って代表権を返上、新体制をスタートさせたが、業績が低迷したため08年に社長として再登板する。リーマンショックが発生する直前だった。復帰した直後、「リンガーハットの大手術をする」と宣言、まず不採算店50店舗の退店を決め、画期的な「野菜の100%国産化」のプロジェクトを開始した。

「きっかけは、日本フードサービス協会の会長時代、全国の産地を巡って日本の野菜の素晴らしさを痛感したからです。日本の農産物の自給率を高めるためにも、国産野菜を外食産業で使おうという思いもありました。ただし、国産野菜を使うと材料コストが上がり、調達が困難になる課題がありました」(米濵名誉会長)

 リンガーハットグループが年間に使用する野菜の総量は1万2400トン。キャベツとモヤシは国産だったが、他の野菜は外国産だった。そこで同社では、国内の生産者を自ら開拓、契約栽培で調達する仕組みに取り組んだ。栽培から収穫方法、コンテナへの積載方法に至るまで、生産者と話し合いながらルートづくりを行い、野菜のカットを内製化してコストを削減した。

 09年10月から全店で国産野菜の使用をスタート。「野菜たっぷりちゃんぽん」は大ヒット商品になった。

 この国産野菜への取り組みは、同社がV字回復する大きなターニングポイントになった。従業員が一丸となって同じ方向を目指したことで、パート・アルバイトを含めて社内の結束も高まり、食の安全・安心を貫いたことでリンガーハットのブランド価値も上昇した。

第3の柱、外販事業の拡大に注力

 現在、リンガーハットグループの事業の柱は、長崎ちゃんぽん事業ととんかつ事業の二つだが、第3の柱として外販事業の拡大にも取り組んでいる。佐々野社長は現状をこう語る。

「外販事業は、この2年間で冷凍ちゃんぽんなどの売り上げが倍増しており、今後は早期に50億円の規模を目指したいと考えています。また、現場のスケジュール管理をはじめ、商品管理やトレーサビリティーのためにAIを活用、デジタル投資も積極的に行っています。いずれは、調理の仕組みも含めたシステムをノウハウとして事業化したいとも考えています」

長崎ちゃんぽんで強固なブランドを確立。60周年を迎えた老舗チェーンの挑戦長崎ちゃんぽん事業、とんかつ事業に加えて冷凍食品などの外販事業を第3の柱に

 また外食産業は人財産業でもあるという意識から、同社では人財育成のために企業年商の1.5%を教育予算に投じている。12年にはハワイに出店して米国展開を再開、タイやカンボジアなどASEAN地域へも出店している。

 創業60周年の節目を迎え、米濵名誉会長はリンガーハットの成長の要因をこう語る。

「自分で言うのもおかしいのですが、当社は真面目な会社だと思います。商売はもうけ以前に、正しくならねばならない。私たちは会社のフィロソフィーである“健康的で高品質な商品を手頃な価格で提供する”という実践訓を、正々堂々と実直に追求することで、危機的な状況を何回も乗り越えてきました。正しい商売に徹してきた結果、現在の姿があると考えています」

 リンガーハットグループは今後もやみくもな規模拡大ではなく、企業の持続性を重視した経営を実践していく。その進化と挑戦は未来へと続く。

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