人間系では対応できない複雑性
最適解を導くための仕組み

「多様なビジネスモデルを保有する企業において、投資を含めてさまざまな意思決定を行うには、各部門から上がってきた事業計画だけでは不十分でしょう。市場動向などの外部要因、事業を構成する資産や事業の強み、成長性や効率性など多様な要素を総合し、それぞれの事業を横並びで評価したうえで最適な判断を下す必要があります。その際、短期と中長期の売上げや利益をいかにバランスさせるか、事業ポートフォリオをいかに最適化するかといった視点も欠かせません」と寺坂氏は言う。

 他方、現場の意思決定こそ、人間系による意思決定の限界がある。たとえば、ある消費地で需要が急増した時の対応を考えてみたい。

 欧州である製品が不足した場合、米州のA工場とアジアのB工場のどちらに追加生産を依頼すべきか。サプライヤーからの調達価格や輸送費、為替、リードタイムなどを総合的に勘案し、最適な判断ができる企業は少ないのではないか。

 あるいは、地政学リスクの顕在化により、特定の材料や部品をいっさい調達できなくなった場合、サプライチェーン全体の影響額を算定し、損害を最小限に抑える最適なリカバリープランを迅速に策定できる企業は多いとはいえないだろう。

「多くの企業でこれらの問題に対して、十分でない情報・データしか揃えられず、勘や経験に頼らざるをえなかったと思います。しかし、いまや人間系、人手では対応できないほど、問題の影響範囲や対象が広がっています」と寺坂氏は話す。

 こうした課題を解決するためには、企業のビジネス活動の事象や問題をデータで把握する仕組みが欠かせない。さらに、データの把握に留まらず、将来予測や動的管理などのデータアナリティクスを経営管理に適用することは必須であり、それを支えるのが次世代EPMソリューションである。

世界的にも始まったばかりの
次世代EPMへの取り組み

 EPMのコンセプトは、多様なデータを収集してビジネスを可視化、分析結果を活用して適切かつ迅速な意思決定に役立てるというもの。こうしたEPMの考え方は、日本企業にもある程度馴染みがあるはずだ。近年は、データドリブン経営を志向する企業も増えている。しかし、外資企業と比べると、その取り組みはまだ緒に就いたばかりという日本企業が多いのではないか。

「欧米のグローバル企業はデータに基づく意思決定に慣れています。そのための教育も充実しており、データドリブンを目指そうという意識も強い。一方、日本企業では現場の定性的な報告を重視し、データは補完的な材料と見られる傾向がまだあるように思います」と寺坂氏は話す。

 事業がシンプルで一定規模までなら、従来通りのやり方でも把握することができるかもしれない。しかし、各国現地法人の活動を含めてビジネス状況を理解する必要があるグローバル企業では、データを主軸に据えるほかない。ビジネスモデルが多様化し、バリューチェーンが複雑化している企業の場合はなおさらだろう。

「ただ、こうしたデータドリブン経営の先進企業においても、将来予測の精度向上とこれまでにない予測トレンドへの対応については悩んでいます」と寺坂氏は言う。

 現時点では、欧米の先進企業も次世代EPMを実現しているとはいえないようだ。

「日本企業がいくつかの課題を乗り越える必要があるのは確かですが、次世代EPMへの取り組みは世界的に見ても始まったばかり。日本企業がその有効活用において先頭集団に入ることも十分可能だと私たちは確信しています」と寺坂氏。

 次世代EPMを実現するための具体的なアプローチについては、次ページ以降で考えてみたい。