激しく変化する時代を生き抜くうえで、企業の成長戦略と人材戦略はまさに車の両輪だ。成長戦略を力強く駆動していくためには、時代の変化に柔軟にフィットする人材戦略が欠かせない。
「人の三井」と呼ばれ、人材の力を成長の核としてきた三井物産は2022年、新たなHR Global Data Platform“Bloom”を導入した。 同社の人材マネジメントや育成の責任者である平林義規氏と、Bloomの開発支援に当たってきた、 アビームコンサルティング代表取締役副社長の山田貴博氏に話を聞いた。
人材主義の伝統の下で多様な強い「個」を育てる
山田 不確実性と変化のスピードが増し、ダイナミックに経営環境が変化する時代において企業の経営戦略と人材戦略は、これまで以上に持続的成長を支える車の両輪として重要性が増しており、環境の変化に対してさらに柔軟な対応が求められます。2020年5月に貴社より発表された「中期経営計画2023〜変革と成長〜」の中でも、新Mission Vision ValuesのValues、すなわち「挑戦と創造」を支える人的価値観として、「変革を行動で」「多様性を力に」「個から成長を」「真摯に誠実に」という方向性が示されています。貴社の人材に対する基本的な考え方である「人の三井」と、その価値観の変化についてお話しいただけますか。
平林 まず初めに当社の歴史からお話ししたいと思います。1876年、江戸幕府の武士だった益田孝が旧三井物産を創業しました。(注:法的には旧三井物産と現在の三井物産には継続性はなく全く別個の企業体)
益田は英語が堪能だったため、幕府の欧米使節団に随行してパリを訪れた際、日本の文明や技術の遅れを痛感したそうです。とりわけ、当時は貿易面で諸外国に牛耳られていた状況に非常に強い危機感を覚え、国益のために自分たちがその仕事を担おうと27歳で創業したのです。当時は16人くらいの、いまで言う「ベンチャー企業」です。一人ひとりがこの国を変えるために新しいビジネスを創っていくんだという志を持っていたと思います。英語名の「&Co」の部分、「三井とその仲間たち」にもその意味合いを読み取ることが出来ます。三井物産が創業当時から人を重視してきたことがおわかりいただけると思います。
いまも昔も、三井物産の最大の資産は、多様な強い「個」です。そして、個が活躍の場を求めるのなら、それを会社として提供していく。事業ポートフォリオ戦略に連動した活躍の場を用意し、個を配置していく。その活躍の場で、新しい仕事への挑戦を通じてスキルや専門性を身に付け、さらに強い個へと成長する。仕事を通じた個の成長、つまり「人が仕事を創り、仕事が人を磨く」という理念が、私たちの人材主義の原点にあると考えています。
とはいえ、これをグローバルで展開するとなると、いままでのやり方では間に合いません。これまで運用してきた人材関連のシステムは、日本と海外の各地域で採用された人材情報が個別に管理され、その粒度や鮮度が異なり、相互の連携・活用が困難でした。そこで、すべての人材情報を一括で管理し、より有効に「適所適材」を実現していく仕組みを新たに構築しようと考えました。それが、アビームコンサルティングをはじめ各パートナーの支援を受けて導入を進めているHR Global Data Platform “Bloom”です。
人材データを統合管理しグローバルで人が活躍する場を
山田 投資家を中心に企業価値そのものの定義が大きく変わってきています。たとえば、これまで企業価値といえば、利益から算出される経済的な価値と同義でしたが、昨今は経済的価値に加えて、ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点から、より広い範囲の社会的価値、特に人的資本を企業価値の重要な指標として取り扱うようになってきました。ただし、各企業が取り組む企業価値向上に向けた経営戦略において、人的資本の重要性を認識し、具体的に人材戦略にまで落とし込んでいる企業は、そう多くないと考えます。