平林 その点について、当社の考えや取り組みを少しお話ししたいと思います。たとえば欧米では、キャリアアップを考える場合は転職が常套手段です。自分が働く場所を変えながらキャリアアップしていくため、必然的に雇用の流動性も高くなります。一方で日系企業の場合は、長らく長期雇用が前提になってきたため、現在40代後半から上の人にとって転職は一般的でなく、自分でキャリアを考えるという意識が養われていません。ところがそれより若い世代になると、自分でキャリアパスを考え、その実現のためには転職も現実的な選択肢の一つと考えています。そのため現在の多くの日系企業の中には、キャリアに対して意識の異なる2種類の層が存在しています。会社や経営層としては、このどちらにも魅力的な職場を提供する努力をしなくてはなりません。
若手は新しいことに意欲的で、未知のものにも前向きにチャレンジします。ただ、経営戦略を実現するには、やはり40代以上の経験と専門性が必要な場面もあります。そうした中高年層の知識やスキル、そして若手の意欲やチャレンジ精神をうまくマッチングさせ、そこに新しい価値を創出していくようなマネジメントがこれからは求められていくでしょう。そうした観点から、当社では「年齢のダイバーシティ」も人材活用における重要な課題になっています。これまでの年功序列という慣習を考えると非常にハードルが高いのですが、この問題を克服していかないと、おそらく日系企業は競争に勝てなくなってしまうと危惧しています。
その年齢のダイバーシティを考える時に重要なのがフォロワーシップです。あるべきリーダー像が変わってきていると話しましたが、これからはリーダーシップがフォロワーシップの障害とならないよう、マネジメント側は常に意識しなくてはいけません。今までリーダーの立場だった人がその専門性の高い業務でエキスパートとして活躍し、若手をリーダーとして立てる。そうした複線型の柔軟な働き方ができて初めて、組織としての力が発揮できるようになると思います。大きな視点で見れば、これも三井物産のインクルーシブな会社の風土を形成する一部分になるのだと思っています。
人材情報を集約・活用 Bloomで競争優位を実現する
山田 最近日本においても、経済的価値に加え、人材価値がつくり出す社会的価値も加味して企業価値を総合的に判断していくという潮流が加速し、投資家をはじめとして、顧客、消費者からも人的資本開示やESGを中心とした社会的価値の開示を求める動きが強くなってきています。三井物産としてこの流れをどう見ていますか。
平林 人的資本開示そのもののトレンドは、グローバルの流れに収斂していくと思います。また当社に限って言えば、いままで地道に取り組んできたものを、明確なストーリーを持ってステークホルダーに説明できるようになる点では、追い風と受け止めています。私たちの人に対する考え方や価値観を広く知っていただくことで、この会社に来れば自分の力も伸ばせるし、その活躍が最終的にお客様やさまざまな国、社会にビジネスという形で貢献し、その手応えを感じられるということを知ってほしいと願っています。
山田 その点でBloomは、人的資本開示の加速や人的資本経営の実現に向けて、非常に重要な基礎となると考えています。グローバル・グループベースで人的資本情報の可視化が実現するのはもちろんですが、成長戦略や人材戦略における戦略目標と人的資本情報の相関性を、蓄積したデータをもとに分析し体系化したうえで、採用コスト、人材開発コスト、海外現地採用社員登用比率、女性管理職比率、上司と部下の面談回数、社員一人当たりの研修時間など、どのようなKPI(重要業績評価指標)を改善すれば社員のエンゲージメントが向上し、生産性向上や高収益化、ビジネスイノベーションの創出へとつながっていくのか、といった分析も可能です。
職責ごとにBloom上に蓄積されたデータを活用したオペレーションや判断プロセスを定義、定着化や課題抽出、改善に向けたアクションプラン立案、結果の評価、さらなるアクションの立案などのマネジメントサイクルやオペレーションサイクルを構築することも可能です。こうしてデータドリブンな仕事の進め方へと、社員の行動変容を促していくことが重要になってくると思います。こうした経営の高度化やデータドリブン変革を加速するツールとしても期待値は大きいと思いますが、平林さんはどうお考えですか。
平林 その可能性には大いに期待しています。当社には、たとえば「人材開発・活用調査表」と呼ばれる人事資料があり、ここに社員がキャリア志向や異動希望などを書き込み、上司が社員の活躍の方向性を書き込む情報共有ツールにしています。
この情報がBloomに載ることで、活用の可能性が飛躍的に広がります。また、情報のアップデートも現在は年1回ですが、本人がシステムにアクセスして毎月あるいは毎日でも更新できるようになっていくでしょう。そうなれば評価や、その評価に至るまでの目標と達成度のレビューなども、すべて一つのデータとして取り込んでいけます。さらに現在行われている「Mitsui Management Review」と呼ばれる、360度評価のデータも取り込んで活用していきます。
その目指すべき到達点として、ピープルアナリティクスの実現を考えています。ある仕事に必要なメンバーをBloomのデータベースから検索して選出できる。そうした時代がまもなくやってくるでしょう。そうなれば、経営やビジネスの戦略をBloomが人材面から幅広くサポートできるようになり、当社の競争優位性に大きく貢献することになると期待しています。
山田 一般に人事情報のシステム化というと、これまでは人事領域における人事オペレーションのデジタル化や人事情報のデータベース構築ととらえがちでした。しかしBloomは、三井物産の中期経営計画に沿った人材戦略やデータドリブン経営、その中でも人的資本経営の推進において、三井物産グループグローバルにおける人的資本の可視化だけにとどまるものではありません。人的資本価値の可視化や最大化、さらに新たな価値の創出をも視野に入れた人的資本経営基盤であり、そこで創出された新たな価値や成果が組織全体に還元され、三井物産の成長戦略実現そのものを加速していくと考えます。アビームコンサルティングは、人的資本経営基盤構築から人的資本価値の最大化や新たな価値創出までも含め、「人の三井」をデータドリブンで創造し、人的資本経営の実現に向けてこれからも変革のパートナーとして貢献していきたいと思っています。
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