経営戦略や事業戦略と人材戦略の関連性を、データ活用によって実証・体系化し、企業としてその関連性をもとに経営戦略や事業戦略の実現、企業価値の向上にどうつなげていくのか、また、そのためのデータは整備されているのかなど、実現に向けたさまざまな課題があり、難度が高いためです。三井物産の人材戦略においては、どのような変化が起きているのでしょうか。
三井物産 常務執行役員 人事総務部長
1986年に商学部卒業後、三井物産入社。食品部加工食品第一グループの配属となり、主に加工食品の国内販売業務に携わる。海外修業生として旧ソ連に派遣。東京に帰任後、海外開発事業部第三営業室に配属。シンガポールに駐在しながらアジアにおける不動産開発事業を担当する。人事部人材開発室次長として採用業務などに携わった後、秘書室に異動となり社長秘書業務も経験。以降、三井物産モスクワ有限会社副社長、コンシューマサービス業務部長、執行役員流通事業本部長を経て、2021年4月より現職。
平林 人材戦略の方向性に、いくつか具体的な変化が見られます。現在、中国やアジア諸国が台頭する中で、産業構造がグローバル規模で発展・変容しており、人材の活躍するフィールドもグローバルに広がりつつあります。そうなれば、当然人材戦略も変わってきます。
また、ウクライナ紛争をはじめ地政学的な問題も世界各地で起きています。今まで以上に先の予測が難しい状況で、グローバル化の動きを確実にビジネスにつなげていこうとしても、日本からだけで進めるのは厳しい状況です。グローバル市場を視野に入れながら、同時にローカルで現場に精通した人が仕事をつくっていく「Local depth for global reach, global reach for local depth」という仕組みの構築は、喫緊の課題です。
山田 事業開発や人材開発においては、現状、多くの日系企業が日本国内を対象としていますが、グローバル展開やローカルビジネスにおけるニーズや変化に柔軟に対応できる、グローバル多拠点展開へのシフトを模索しています。三井物産では、具体的にどのような取り組みを進めておられるのでしょうか。
平林 人の育成は、「地域」と「事業/機能」の2つを軸に考えています。三井物産には、現在16の事業本部と、CFO、法務や人事総務などのコーポレート組織がありますが、それぞれの事業本部やコーポレート組織が東京・大手町の本店にあって、世界のビジネスを見ています。一方で、米州、アジアパシフィック、欧州、中国・極東、中東・アフリカ、CISを含めた各地域に拠点があり、それぞれの地域で採用された人材が各領域の事業に携わっています。この両者の組み合わせで「地域」と「事業」を見るという、言わばマトリックス経営です。
先ほども触れたように、この体制では日本と海外各拠点の人事情報は別々に管理されていました。しかし、今回新たに開発したBloomを活用することで、どの地域にどんな人材がいて、どんなビジネスを手がけているのか、なおかつ、現時点ではどのような能力があって、それをさらに伸ばすためにはどんな機会を提供すればよいかといったことを、具体的に検討できるようになると期待しています。
今後は、国際間の人材の異動も自ずと増えていくと考え、「グローバルモビリティプログラム」と呼ぶ、人材が動く際のサポート要件の標準化を進めているところです。これを活用すれば、結果として各拠点間での人の動きが活性化されます。人材の交流が増えて、より多様な意見が生まれる環境もつくり出すことができるかもしれません。ここが非常に大事だと考えています。
そうした環境からは、いままでなかったアイデアや場合によってはイノベーションが生まれるという期待が持てます。そのためには多様な意見が受け入れられるインクルーシブな職場環境や言語の違いによる情報ギャップをなくすためのさらなる取り組みも必須でしょう。会社としてもさまざまな側面からのサポートを、同時並行で進めていく必要があると考えています。
山田 まさに、人材の職責や専門性・能力、キャリアプランに対応した成長機会の提供、グローバル各拠点のビジネス現場のニーズに対応したグローバルでの人材配置など、Bloomというデジタルプラットフォームを最大限活用したグローバル・グループベースの人材情報の管理・活用を実現して人材戦略を展開する。それによって、三井物産グループがグローバルで実現している人材の多様性を、ビジネスイノベーションへとつなげていくベストプラクティスを創造していきたい。そんな思いを持って、私たちもプロジェクトに取り組んでいます。
多様性推進やリーダー研修でフォローアップ施策を実施
山田 国や地域を超えて、その専門性と能力を発揮し、ビジネスを創出するグローバルプレーヤーの発掘や育成、すなわちダイバーシティをビジネスのイノベーションにどうつなげていくのかということは、日系企業にとって最重要課題の一つです。創業期からグローバルを視野にビジネスを創出、展開されてきた経験から、「三井物産のグローバルプレーヤー」育成についてお聞かせください。