平林 たとえばダイバーシティの視点では、女性社員に向けた「スポンサーシッププログラム」が挙げられます。ここでは、経営会議のメンバーがそれぞれ女性の幹部候補を受け持って、1年間にわたって支援していきます。期間中は何度も相談に乗りながら、ストレッチしたアサインメントを通じて本人の意識や意欲を高めていくといった内容です。また、もう少し若手の女性管理職を対象にしたプログラムも行っています。こうした試みは、単に女性の活躍推進を図るだけではなく、インクルーシブな企業風土強化の一環と考えています。

 このほかにも、「チェンジリーダープログラム」という研修があります。今年(2022年)ですでに第4期目になりますが、これは日本以外の採用地域から、将来三井物産を担っていくことが期待される社員を選抜して、年間10人強を対象にOJTと集合研修を行うものです。これらのプログラムでは、研修後もしっかりとキャリアをフォローアップして、今後の持続的な成長につなげています。

 また今年7月には、ハーバード・ビジネス・スクールのプログラムをカスタマイズして、2週間強の研修プログラムを実施しました。これには国内外で採用された社員に加えて、グループ会社の幹部やパートナー企業の幹部合わせて40人以上が参加。最終日にはここに当社CEOの堀(代表取締役社長堀健一氏)も加わって討議を行うというものです。

未来を担う多様な強い「個」を育てビジネスを通じて世界に貢献する山田貴博氏
アビームコンサルティング 代表取締役副社長

外資系コンサルティング会社を経て、2003年にアビームコンサルティング入社。総合商社・金融・通信・エネルギー・運輸を中心に、戦略から業務改革、デジタル変革まで幅広いコンサルティングサービスを提供。現在、代表取締役副社長COO。

山田 不確実性が高く先の見通しが難しい時代にあって、そうしたグローバルベースで人材一人ひとりの経験値や能力、専門性といった多様性を可視化し、ビジネス戦略や個人の志向に対応したキャリアプランを策定する。その上で、多様性をさらに伸ばし活かしながら、ビジネスイノベーションを生み出していく。これを重視した研修プログラムの提供や、ダイバーシティ・アンド・インクルージョンを重視した働く環境づくりの推進は、今後のグローバル人材育成と活用の方向性を模索する多くの日系企業にとって、とても具体性のある示唆になりますね。
 
平林 いまの時代、一人のスーパーリーダーがオールマイティに、あらゆる事柄を決定していくといったモデルは難しくなります。またESG経営のように、企業には経済的利益だけでなく社会的貢献などが求められ、リーダーのあり方は変わっていきます。常に強力なリーダーであるよりは、リーダーシップを取る時は率先して動き、専門的な知識が必要な時には、必要なスキルを持ったメンバーを立てて自分はフォローに回るといった、これまでとは異なる柔軟なリーダーシップが求められてくるでしょう。

若手の挑戦と中高年のスキル 的確なマッチングの工夫が必要

山田 ここまでお話を伺って、三井物産のグローバルタレントマネジメントに学ぼうと考える日系企業も多いと思いますが、長い歴史を通じて築き上げられてきた「人の三井」をベースとした人材戦略を、いきなり取り入れるのは難しいのも事実です。まず経営戦略や事業戦略を実現するには、どのような人材のどのような経験や専門性・能力が必要になるのか、人材をどう組み合わせてイノベーションにチャレンジしていく最適なチームをつくっていくのか、といった戦術を立てることが出発点ではないでしょうか。

 経営者がこの課題にチャレンジする場合は、経営戦略や事業戦略の実現に対応した人材戦略と戦術が必須であり、人材の成長戦略に応じた適切な人材配置や人材育成の重要性を明確に認識し、経営や事業における成長戦略を踏まえて人材の成長戦略を立てる、ということになるでしょうか。