パンデミック、米中貿易摩擦、そして地政学リスク。 相次ぐ脅威にさらされ、製造業のサプライチェーンは寸断、 世界が「買えないリスク」「つくれないリスク」「運べないリスク」に直面している。 ただ、各国企業が受けた影響は一様ではない。その差はどこにあり、 次なるリスクに備えるためにどうすべきか。 3PL(サードパーティーロジスティクス)をリードする日立物流の今野勉氏、日立物流ソフトウェアの熊田静氏、 そしてアビームコンサルティングの山中義史氏が最新の分析を持ち寄り、意見を交わした。
世界の製造業を襲った脅威で露見 日本と欧米の大きなギャップ
山中 最初にこの2年半ほどの状況を整理させてください。グローバルに展開している日系の製造業では、世界の各所でサプライチェーンが寸断され、「買えないリスク」「つくれないリスク」「運べないリスク」に直面、事業継続に大きな脅威が生じています。原因は、COVID-19によるパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、米中貿易摩擦を発火点にした半導体の争奪戦といった複合的なファクターです。さらに今後に目を向ければ、人権問題やSDGs対応といった新たなサプライチェーンマネジメント(SCM)のリスクもくすぶっています。
こうした中、ある報道では、2021年末と今年2022年の3月末時点の比較で、世界の製造業の在庫が12兆円分も増加していると伝えています(2022年6月29日付『日本経済新聞電子版』)。いくら在庫が積み上がっていても、トップラインが伸びていれば経営上問題にはならないのですが、この報道などを受けて当社で調査をしてみると、グローバルで活躍する製造業において、日系企業と欧米企業との間に大きなギャップがあることがわかってきました。
最初は信じがたかったのですが、不確実な環境下における在庫日数の変化に顕著な差が見られました。欧米企業がこの間も多くの企業で売上げを伸ばし、棚卸資産については一定の範囲内でコントロールしていたのに対し、日系企業は売上げの増加幅以上に棚卸資産を増やしていたのです。そのため、ほとんどの欧米製造業が在庫日数を短縮しキャッシュを創出しているのに比べ、日系製造業は在庫大幅増によるキャッシュフロー悪化を招いていました。
今野 我々も物流の現場で「過剰購入」というワードをしばしば耳にします。背景には、日本のサプライチェーンの領域で意識されてきた「安全在庫を持ちなさい」という文化があるように思います。ただ、今回のような極端な事象に遭遇した時、キャッシュフローが良好な欧米企業の姿を見ると、安全在庫とはいったい何なのか、いま一度問うべきかもしれません。
山中 日本らしいサービスレベルの維持、受注の機会損失への恐れなどを優先した姿がそこから見て取れますね。別の調査では、リスク発生後の対応スピードにも、大きな差がありました。欧米の企業は早い段階でドラスティックな判断をして、東欧地域での工場停止、代替生産の切り替えに踏み切っています。
熊田 データによるファクトがあるわけではありませんが、たしかに日系企業には、欠品というものを異常に恐れる傾向があるように見受けられます。そのため日頃から安全率を多めに見ており、とにかくお客様に迷惑をかけてはいけないという思いが今回の差を生んだ一つの要因ではないでしょうか。
リスク対応に大きな差 日系と欧米で異なるKPI
今野 今回の事象に対する欧米企業の対応から、まさにレジリエンス(回復力)とは、アジリティ(俊敏さ)と分かちがたいものだということを痛感します。これほど日系企業と欧米企業との間で対応に差が出た原因として私が感じるのは、メンタリティやカルチャーだけでなく、サプライチェーンの現場でマネジメントが意識しているKPI(重要業績評価指標)が違うのではないかということです。
山中 その点は大いにうなずけるところがあります。今野さんは、欧米企業のマネジメントが意識しているKPIは何だとお考えですか。