当社はさまざまな企業に基幹システムを提供し、経営やグローバルサプライチェーンに関するデータを持ち、内容を理解しています。そこに3PLをリードする日立物流のリアリティのある現場データを組み合わせれば、日系企業のレジリエンスに寄与するサプライチェーンデザインが提供できると信じています。

熊田 さまざまな企業の支援を行う中で培ってきた知見やデータをお持ちのアビームコンサルティングのような会社と、当社の物流業務知見やパラメータ値の補完が合わされば、広くて深くて難しいサプライチェーンの全体把握も可能になるのでは、と期待しています。ただ、道のりは始まったばかりだと感じます。

不確実な環境を柔軟な適応力で生き抜く 成長の源泉はサプライチェーンにあり熊田 静氏
日立物流ソフトウェア システム事業統括本部 SCMイノベーション本部 産業第一システム部 担当部長

2002年日立物流ソフトウェア入社。半導体関連企業数社のERPプロジェクト従事後、 2018 年よりシステム事業統括本部SCMイノベーション本部産業第一システム部に所属。現在同部担当部長を務める。建機業界や自動車業界の調達供給システム再構築検討、調達部品倉庫システム導入のプロジェクト、SSCV稼働などをリードした。

 まだそれらのソリューションを導入していない企業や、アナログのデータしかないプロセスもたくさんあり、全体像をあぶり出すには欠けたピースが多い状態です。日本人は几帳面ですから、「データが取れないから無理だ」と諦めてしまうケースも多いのですが、それではもったいないと申し上げています。一方で欧米では、わからないところは想定でデータを入れ、半ば強引に「見せる化」を実現しています。それでいいのか、という議論もありますが、まずは仮のデータで補いながらスタートし、やがてすべてのデータが揃ってくれば、より解像度の高い実態把握ができるようになります。

山中 揃ってからやるのではなくて、まずはSCMのDXの第一歩を踏み出すことが重要というわけですね。

熊田 そうです。まず始めなければ何も起こりません。まずは、我々がご用意する仮データをセットして可視化し、その後、精度を高めていければと考えています。たとえば先ほども話に出た欧州で厳しく対応が求められるCO2排出規制について言えば、CO2モニターの計算ロジックはわかっています。自社のデータが取れないなら、我々が持っているテンプレートで推計すれば、現状と目標のおおよそのギャップが把握でき、戦略が立てられます。そのほかにも、倉庫の生産性や補充率などについても、テンプレートで初期のデータ不足を補うことができます。

今野 サプライチェーン全体を見渡すためのデータは1社もしくはワンプレーヤーで揃えるのは困難です。異なる強みを持つサービス提供者同士が知見を持ち寄ることで、サプライチェーンのDXは一層加速するのではないでしょうか。

現場と経営の距離に課題 トップが持つべき視点

山中 日系企業が今回のような状況に立ち至った時、もし日本を代表する経営者、たとえばソニーの井深大さんや盛田昭夫さん、京セラの稲盛和夫さんなどであれば、ここまで私たちが話してきたような仕組みは必要ないかもしれません。なぜなら、ものづくりやサプライチェーンを頭に浮かべながら、キャッシュフローを描ける経営者だからです。ただ、時を経て企業の事業規模は拡大し、変化する要素の多さと変化するスピードの速さは、以前とは比較になりません。私がいま気になっているのは、サプライチェーンの現場と経営の間に距離が生じてしまったことです。

不確実な環境を柔軟な適応力で生き抜く 成長の源泉はサプライチェーンにあり

 現在、日系製造業のCEOやCFOで、自社のサプライチェーンを網羅的に把握している方は少ないように感じます。戦略物資の資材発注や、基準生産計画におけるリソース投入、期末の在庫着地見込みをキャッシュフローに置き換え、その良し悪しを意思決定できる方がどれほどいらっしゃるでしょうか。中期的なサプライチェーンデザインを行ったうえで、月次~四半期のスパンでS&OP(セールス・アンド・オペレーション・プランニング)プロセスを回すことが、経営と現場の格差を埋める手立てとなります。日々のサプライチェーン計画(生産・物流・調達)においても、事業損益視点、キャッシュフロー視点でCEOやCFOが経営をレビューする。その状態をつくり込んでこそ、今回の教訓が活きたと言えるのではないでしょうか。

今野 金融は別として、いまや世の中の大半の企業が、何らかの形でサプライチェーンに関わるビジネスをしているのではないかと思います。その中で、日々あっちを立てればこっちが立たずということを続けている。それがまさにリアルなSCMであり、世の中はそれで動いています。それを一気通貫に、流れるように扱えるプラットフォームの実現には期待が高まります。大切なのは、そこにどういう実体感のあるシナリオをはめるか、どういうインサイトを得て課題を解決していくか、ということだと思います。今回、世界が経験した試練よりさらに深刻なリスクが発生した時、せっかくバックアッププランを用意していても、現実味のない「絵に描いた餅」では仕方がありません。我々はそこにリアリティを吹き込む役目を負っていると感じます。

山中 お二人のお話を伺って、あらためて今回の一連の事態でクローズアップされた「サプライチェーンリスク管理」という概念は、まさに企業経営そのものだと痛感しました。リスクを可視化しデジタルツインで定量評価し、その対処方法を決めておく。有事はデジタルで察知し、即座に意思決定を下す。そして、そこにはリアルな物流網が整備されている。これこそが、強靭なサプライチェーン構築への道と言えそうです。

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