今野 全社レベルの資産回転効率あたりではないかと思います。欧米企業はこれをとても強く意識しているように見受けられます。

山中 私も欧米の企業は、ROIC(投下資本利益率)やCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)など、キャッシュを意識していると感じます。そのため何かが起こった時の対応も異なってきます。私は日頃、企業の中期経営計画書を見る機会が多いのですが、日本の企業においても最近はROICやCCCを意識する企業が増えています。ただ、海外はその歴史の長さが違います。

熊田 私たちは物流をSCMと関連付けて見る機会が多いですが、その観点からすると、資産だけではなく全体的な安全在庫の把握、配置において、日系企業の姿勢はストイックだと感じます。在庫保有率がこれくらいなら資産はこれぐらいになると可視化できている企業はあるものの、在庫保有率をもとに利益損失のシミュレーションを行い、経営判断に資するKPIのお話をされるところは多くありません。どちらかというと、安全在庫を切らさないように努力するということに意識を向けている企業が多い気がします。

不確実な環境を柔軟な適応力で生き抜く 成長の源泉はサプライチェーンにあり

山中 今回、我々のお客様においても「戦略的な在庫積み増し」が多く見られました。ジャスト・イン・タイムを堅守されていた企業が、製品在庫を1~2カ月余分に持つと宣言したことも象徴的でした。理由は達成すべきKPIが「納期遵守率」だったからです。「それが我々の供給責任だ」とおっしゃった。リスクに対する対応として素晴らしいと思うのですが、欧米企業との差として、過度なリスク回避による競争力低下を招いたとも言えます。

今野 たしかに供給責任という言葉は私もよく耳にします。一方で米国に目を移してみると、別の状況が見えてきます。パンデミックやロシアのウクライナ侵攻などで港湾や物流の労働者の業務に支障を来し、それまでも頻発していた労働者の不満が高まりストライキが常態化しています。西海岸などでは陸揚げが進まず、港での滞留が改善していません。

 ただ、そんな状況にもかかわらず、山中さんがおっしゃったように欧米企業のほうが日系企業より在庫の偏在も少なく、キャッシュも回っている。何か見落としているところがあるのではと感じています。

熊田 米国内の輸送の仕組みは、日本に比べて非常に柔軟です。オープンな求車の仕組みによる輸配送が古くから出来上がっているように見えます。

今野 キャリアや倉庫を差配するブローカレッジ(手数料を得て取引の仲介を行う業者)の存在が影響している可能性もあります。また、推測の域を出ませんが、米国ではウーバーイーツの配達員のように、ギグワーカー的な雇用形態のトラックドライバーが多いと聞いています。これも柔軟性につながっているかもしれません。

 ただ、柔軟性は不安定さと表裏一体です。今回のような事象が発生した時、エンド・トゥ・エンドでネットワークを持っているほうが強いとも言えます。エリアの特性もあり、解は一つではないと感じます。今後もくわしく見ていきたいと思います。

物流は重要な経営課題 SCMのデジタル化は必須

山中 この2年半であぶり出されてきたものはほかにありますか。ぜひグローバルで物流を肌で感じていらっしゃるお立場から、知見をご披露いただけたらと思います。