「人生100年時代」の“切り札”として期待される若返り物質のNMN。現在の研究で分かっていることや今後の課題、販売事情などについて気になる疑問を、徳島大学大学院社会産業理工学研究部の宇都義浩教授と、日本で初めて食品認可を受けてNMNを製造販売したパイオニア企業のノルデステ(本社・東京都)・阿部朋孝社長に聞いた。

人類は「老いない体」を手に入れられるのか

「人生100年時代」が強く意識されるようになった昨今、アンチエイジング物質として注目を浴びているのがNMNと呼ばれる「Nicotinamide mononucleotide(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)」だ。

「米国で研究が進んでいたこの物質は、2019年に米ハーバード大学医学部のデビッド・A・シンクレア教授が著書『LIFE SPAN 老いなき世界』において、NMNは老化を抑制できる物質になるかもしれないという説を打ち立てたのを機に、世界中でブームになりました」と語るのは、徳島大学大学院社会産業理工学研究部の宇都義浩教授。

 宇都教授は、体内の生理活性物質の化学変化や働きなどを解明する生物有機化学が専門。超高齢化社会に寄与する研究として、抗老化作用が期待される成分の創薬研究にも取り組んでおり、NMNにも詳しい。

 NMNは、生命の維持に欠かせない補酵素「NAD(Nicotinamide Adenine Dinucleotide 〈ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド〉)」の生成に重大な役割を果たす。食品として摂取されたナイアシンが主に小腸から吸収されてNADに変化するのだが、体内のNADは10代後半をピークに減少に転じ、40代でピーク時の半分まで減少する。つまり、NADが体内から少なくなると老化が始まり、身体機能や認知機能の衰えが進むと考えられているのだ。加えて、NADは長寿遺伝子といわれるサーチュイン遺伝子を活性化させる働きも研究報告されている。

 では、NADを摂取すれば老化を防げるのかというと、そうではない。NAD自体を摂取しても、細胞膜への浸透性が低いため、細胞には取り込まれない。

 故に「体内のNAD濃度を上げるには、その前駆体(原材料)であり、加齢に伴って減少したNMNの不足分を補うのがいい」と多くの研究者らが主張しているというわけである。

 近年、注目された研究報告を例に挙げれば、2021年には、米ワシントン大学の今井眞一郎教授らのグループが肥満の糖尿病予備軍で閉経後の女性25人を対象に臨床試験を実施。女性たちに1日250ミリグラムのNMNかプラセボ(偽薬)を投与したところ、NMN摂取群では血糖値を下げるインスリンに対する感受性が骨格筋で25%高まったという論文が学術誌「サイエンス」に掲載されたことで、一般的な認知度も一気に高まった。

 同年6月に開催された日本抗加齢医学会総会でも、NMN関連の発表に大勢の研究者やメディアが詰め掛けた。加えて、有名な実業家や芸能人がSNSやインターネット動画などで推奨したこともあって、世間の関心が大いに高まってきたわけだ。

 次ページからは、各方面から注目を集めているNMNについて、宇都教授が研究者としての冷静な視点から、最新事情や研究課題について解説する。