あのプロジェクトとは、包括的業務提携を結んだJR東と東急不HDによる最初の共同開発案件「船橋市場町プロジェクト」だ。千葉県船橋市のJR船橋駅から徒歩約10分の場所にあるJR東の社宅跡地に、分譲マンションや商業施設などを一体的に開発する。敷地面積が4万5000平方メートルにも及ぶ大規模プロジェクトだ。
業務提携でも東急不HDは優遇されない
このプロジェクトは表向き、JR東の遊休不動産を活用し、総合不動産デベロッパーの東急不HDがそのノウハウを持ち寄って事業展開するという、理想的な「ウィンウィン関係」に基づいた第1号案件にも見える。しかし、その実態は大きく異なる。
実のところ、第1号案件は、JR東が東急不HD以外の大手デベロッパーにも参加を持ち掛けたプロジェクトだったのだ。
ある不動産業界関係者によると、大手デベロッパーがプロジェクトに参加するためには、JR東と共同企業体(JV)を構成することに加え、賃貸マンションなど稼働中の収益物件をJR東側に“差し出す”ことが求められたという。
実際の提携内容の詳細は明かされていないが、この不動産業界関係者は「JR東日本の俺様感はすごかった」と打ち明ける。「そもそも船橋市場町は一等地ではない。それなのに、強気な条件を振りかざした。あの案件はJR東日本にメリットが多過ぎる。JR東日本と東急不動産の事業提携は、もはやバーターでもなんでもない“不平等条約”だ」(同)とやゆする。
JR東の強気な姿勢は、東急不HDと契約した包括的業務提携にも通じる。あくまでJR東は、自社が保有する遊休不動産の活用について、基本的には是々非々で“パートナー”を選ぶ方針なのだ。
つまり、包括的業務提携を結んだところで、JR東が東急不HDを必ずしも優遇するわけではないのだ。東急不の星野氏はぶら下がり取材で、「弊社が独占的に(JR東の)遊休不動産を取得して、住宅事業を開発するわけではない。あくまで(JR東に)優先的に企画を持ち込むことができるということ」と認める。
別の不動産業界関係者はこう指摘する。「JR東日本は包括的業務提携によって、東急不動産から住宅事業のノウハウをとことん吸い尽くす魂胆だ。どこまで東急不動産はお人よしなんだ」。
なぜ東急不HDは、不動産業界の間で「不平等条約」とまでやゆされる包括的業務提携をJR東と結んだのか。
背景にあるのは、熾烈さを極めるマンション用地の争奪戦だ。限られた用地を取得すべく、不動産デベロッパー同士の競争が激化し、土地の仕入れコストが高騰。東急不HDに限らず、大手デベロッパー各社はマンション用地の仕入れに苦戦しているのだ。
マンション用地が手に入れられなければ商売にならず、デベロッパー各社は危機感を募らせている。こうした状況で、社宅を中心に莫大な遊休不動産を持つJR東は、大手デベロッパーにとって、味方に引き入れたい存在なのだ。
東急不HDの西川社長は記者会見で、「これからも成長していくためには関与アセットの拡大が必要で、自前だけでは限界があった」と苦しい事情を打ち明けている。一方、「大地主」であるJR東にとっては、東急不HDを自陣に引き入れられたのは収穫だ。JR東が目指す鉄道事業以外の分野の収益力を高めるチャンスだからだ。
まずは船橋市場町プロジェクトに加え、東急不HDが保有する既存の太陽光発電所を差し出す形で、JR東と東急不HDは100億円規模の再生可能エネルギーファンドを組成する。JR東と東急不HDの提携期間は33年2月までの10年間だ。
JR東が東急不HDの足元を露骨に見て、真のウィンウィン関係を築かないようなら、東急不HDからは「不平等条約」の改正、撤廃の要請もあり得るだろう。



