経営戦略へ広がっていくデザイン組織の役割

鷲田 デザイン経営の先進企業では、デザイン組織の在り方が変化しており、日立では技術チームにデザイン組織を寄り添わせ、ソニーでは広報戦略にデザイン組織が深く関わる形になりました。NECのデザイン組織も、社内での立ち位置が変わってきていませんか。

勝沼 15年、新事業開発にデザインを活用するために、デザイン機能を本社に移したことが大きな転機になったと思います。私は20年に入社したのですが、特にこの3年間で組織はかなり変遷しました。20年当初は新規事業開発部門にあった「デザインセンター」が、翌21年に「コーポレートデザイン本部」としてコーポレート部門に移りました。以降、全社を俯瞰できる立ち位置を生かして部門間連携を強化し、ブランド(コーポレート部門との連携)、ビジネス(事業部門との連携)、イノベーション(R&Dや新規事業部門との連携)の三つの軸で活動の場を広げています。これに伴って私の肩書も毎年変わっています。デザインセンター長、コーポレートデザイン本部長を経て22年度からは、役員クラスであるコーポレート・エグゼクティブとしてコーポレートデザイン、コーポレートブランディング、コーポレートコミュニケーションを担当しています。そして23年度からは、NEC初のチーフデザインオフィサーに就任します。

鷲田 日本の大企業にしてはかなりスピード感のある変革ですね。その過程でデザインの役割が狭義から広義へ、そして経営の中枢へと広がってきたことがよく分かります。

勝沼 企業の姿勢を効果的に発信していくのもデザインの大きな役割と捉えていて、ステークホルダーとのあらゆるタッチポイントにおけるメッセージをデザインしようとしています。CEOの森田隆之が対外的にビジョンや経営方針を発表する会見や、先日のMWC Barcelona 2023(世界最大級のモバイル技術の見本市)のような場でのスピーチでも、デザインチームとブランディングチームがストーリーやグラフィック作りに関わっています。

鷲田 企業のアイデンティティを明確にするという点では、多くの企業がこぞってパーパスを策定しています。パーパスの策定には未来への洞察が不可欠ですが、未来の社会像を描こうとすると一般的に過去の延長線上で考えてしまいがちで、これは大きな課題と言えます。

勝沼 NECは「2025中期経営計画」の中で、「NEC 2030VISION」を発信しました。これは社会価値創造企業であるNECが30年に目指すべき未来の姿を「環境」「社会」「暮らし」のレイヤーで描いたものです。その策定にもデザインチームが深く関与しています。

鷲田 企業が描く未来像を多くの人と共有するためには、より解像度を高めていく必要がありますが、それにデザイナーは欠かせない存在です。

勝沼 製品やサービスのイノベーションへのデザイン活用も重要ですが、持続的な社会価値創造企業であるために、コミュニケーションデザインも同じぐらい重要視しています。それは現在の顧客、市場、社員だけではありません。今はNECのビジネスに関わっていなくても、理想の社会を共有できる人々を「未来のステークホルダー」として捉え、NECの存在を示していきたいと考えています。