デザインの価値を共有するためにやるべきこと
鷲田 それにしても、わずか3年間でデザイン経営の体制がここまで整ったことは驚きです。多くの企業はデザインの価値を経営層に理解させる点でまだまだ苦心しています。
勝沼 世の中のデザインに対する理解が進んだことも大きいのですが、社内コミュニケーションにも力を入れました。特にトップマネジメント層に対してのコミュニケーションは大事だと思っています。やはり対話の積み重ねがデザインの価値の理解につながっていると実感しています。
鷲田 定量的な評価指標があれば、より説得力が増しますね。これは経営学者である私の課題ですが、今まさにデザイン経営のKPI化に取り組んでいます。まだ体系化できていませんが、イノベーション、ユーザーコミュニケーション、ブランディングの三角構造で整備したいと思っています。
勝沼 私はチーフデザインオフィサーとして、デザイン、コミュニケーション、ブランディングの三つの機能を担当することになりましたので、まさにその三角構造にぴたりと当てはまります。
鷲田 デザイン経営の推進にふさわしい美しい組織構造ですね。特にブランディングは広告宣伝部門に位置付ける会社が多いですが、全社のリソース配分を担う経営企画部門に置くことで、より責任ある発信につながると思います。日本の大企業には、事業部にぶら下がった広報宣伝がBtoCの販促型マーケティングによって製品やサービスを拡大していったという成功体験が根強く、ブランド戦略を全社で統合することに抵抗も大きい。ビジネスとテクノロジーを軸に、デザインの関与を深めていくNEC方式は、日本型デザイン経営への変革モデルとして、多くの企業の参考になると思います。
勝沼 デザイン経営が重要だと思っていても、その具体的なアプローチが見いだせず、取り組みを躊躇する会社もまだ多いと聞きます。NECの取り組みがそうした企業への動機付けやヒントになればと思っています。ただ、企業が向き合うべき課題は複雑で、私たちも試行錯誤のただ中にあります。デザインの力を課題解決に駆使しようとする企業がさらに増え、つながり、共創することで、より良い社会を実現していきたいと思っています。
撮影:TAPPEI(KATT Inc.)