技術と社会課題をつなぐデザインの力

鷲田 経営という幅広い課題だけではなく、具体的な事業へのデザインの関わり方も変わりつつありますね。製品開発の上流からデザイン組織が参画したり、さらには社内デザイナーが新しいサービスを立ち上げたりといった動きが出てきています。

勝沼 NECでもデザインと事業部門との接点が拡張しています。22年にグッドデザイン賞とJIDA(日本インダストリアルデザイン協会)デザインミュージアムセレクションの最高位ゴールドアワードを受賞した「協調搬送ロボット」はその一例です。NECは無線通信の遅延を予測して複数のロボットをリアルタイムに同期させる「適応遠隔制御」という技術をもともと持っていたのですが、これを人手不足が深刻な物流の現場に、人とロボットが協力し合って作業できる仕組みとして活用しました。これは、技術と社会課題をつなぐ「仕組みのデザイン」と、最終的なロボットの形状を定める「プロダクトデザイン」の両方が融合した取り組みです。

鷲田 ロボットの形状や動きも非常に美しいですね。

勝沼 デザインの役割が広がる中でも、やはり「モノの美しさ」は大事です。ただ形がきれいならいいという話ではなく、あらゆるユーザーに価値をきちんと届けるというデザイン本来の力が発揮されていることが重要です。協調搬送ロボットはさまざまな人々が関わる物流現場で使われる前提ですが、そこで誰もが使いやすいインタラクションを実現しています。

鷲田 優れたイノベーションも、デザインが良くないと社会に浸透しません。エネルギー戦略投資などを議論する国の会議でも、「風車が美しくなければ、住民が風力発電を受け入れない」というような意見が出るようになっています。とはいえ、狭義のデザインが発揮されていない領域はまだまだ多い。例えば病院で患者が機器に埋まるように寝かされ、モノのように検査されている光景を見掛けると、見ている側でも嫌な気持ちになります。

勝沼 NECでも、AI創薬や次世代ワクチン開発プロジェクトなど、ヘルスケア領域のイノベーティブな新事業が萌芽しています。人間の暮らしに関わるあらゆる領域にデザインの力が使われる社会を目指していきたいと思います。