「米国で社会保障法が施行される3年前の1932年には、障害補償、年金制度、失業保険の提供を開始。1975年には、汚染が発生した後に排除するのではなく、製品の開発や製造段階で取り除く『Pollution Prevention Pays(3P)』というプログラムを開始しています。今日、ESG経営と呼ばれる取り組みを、創業以来120年以上も実践しているのです」

 そう語るのは、3Mジャパンの永野靖彦コーポレートサステナビリティ担当部長である。

 3Mの歴史は、常に時代ごとの社会課題と向き合い、3Mならではの「サイエンスの力」によって“答え”を示してきた歴史であった。「3M Forward」は、今という時代に対する新たな“答え”である。

「いま、世界はデジタリゼーション、サステナビリティ、少子高齢化という三つの大きな社会課題に直面しています。これらのメガトレンドにどう向き合っていくかということは、全ての企業や個人にとって避けて通れない課題であり、製品やソリューションを通じてわれわれなりの“答え”を示していくことが、社会貢献に長く関わり続ける3Mの使命だと考えています」と永野部長は語る。

世界が直面するサステナビリティへの課題に「サイエンスの力」で挑む永野部長は「製品やソリューションを通じてわれわれなりの“答え”を示していくことが使命」と語る

汚染を発生源で予防するプログラムを70年代に始動

 ESGの全てについて、創業当初から社会的責任や社会貢献を果たしてきた3M。中でも環境対策をはじめとするサステナビリティへの対応は、同社が最も注力してきた領域の一つだ。「3M Forward」でも、サステナビリティをデジタリゼーション、少子高齢化と並ぶ三大メガトレンドの一つと位置付け、その実現のために全力を挙げるとの意思を明確にしている。

 永野部長が語ったように、3Mのサステナビリティへの取り組みは、1975年の「Pollution Prevention Pays(3P)」に始まっている。これは、同年に制定された「3M環境方針」に基づく、初の環境対策プログラムだ。

 1970年代といえば、欧米や日本などの先進国で、急速な工業発展とともに大気汚染などが深刻化した時代だ。当時、汚染は発生したものを排除するというのが常識だったが、3Mはそれに疑問を呈し、汚染を発生源で予防するという取り組みを始めた。それが「3Pプログラム」である。

「製造工程の改善や原材料の代替、汚染を発生させない方法の研究・開発など、さまざまなアプローチによって予防を実践してきました。1975年から2018年までの43年間に排出を抑制できた汚染物質の量は約230万トンに上ります」と永野部長は説明する。

 ユニークなのは、製品にはならない汚染物質は「不要な原材料」であるという3Mの考え方だ。「汚染を抑制することは、余分な原材料の削減にもつながります。つまり、環境対策と費用の削減、サステナビリティ対応と収益力の拡大は両立できるという考え方で、活動に取り組んできたのです」(永野部長)。

「3Pプログラム」によって2018年までの43年間に削減された費用は、1500以上のプロジェクトの累計で22億ドル(約3000億円)にも上るという。

サステナビリティに貢献しない製品は開発しない

 もう一つ、3Mのサステナビリティ対応の歴史を語る上で欠かせないのが、1997年の「ライフサイクルマネジメント(LCM)システム」の導入である。

世界が直面するサステナビリティへの課題に「サイエンスの力」で挑む3M LCMは、製品のライフサイクルにおける各フェーズにおいて、環境・健康・安全・規制の問題に対するプロセスを定めている。他社との共同開発品や完成品の購入、買収を通じて取得した製品なども含む全ての3M製品に、3M LCMが適用される
拡大画像表示

 LCMという概念自体は一般的だが、3Mの「LCMシステム」は、製品の開発、材料調達、製造から、ユーザーによる使用、廃棄までの各フェーズにおいて、環境、健康、安全、規制(EHS&R)への影響を厳格に予測・管理するという独自の仕組みだ。3Mジャパンは1998年にこのシステムを導入。当初は新製品のみを管理の対象としていたが、2006年以降は、既存製品のライフサイクルについても管理している。