データと機械、人の力の融合によって大きな成長を実現
磯和 旭酒造が経営危機から脱却し、大きな成長を果たしたストーリーはさまざまなメディアでも紹介されて、大きな話題にもなりました。直近10年間の売上高の推移を見ても、13年度の39億円から22年度の165億円へと、120億円以上伸びています。この成長の原動力となったのは何でしょうか。
桜井 「成長を続ける」「おいしい日本酒を造る」ことへの強い思いでしょうか。当たり前のことを当たり前にやっているだけです。
磯和 まさに「経営に奇手、妙手なし」といわれるように、特別なことがないというのが最大の強みなのでしょうね。杜氏の採用をやめ、社員がデジタル・データ活用によって「獺祭」を造られていますが、伝統的な手法とデジタル化・機械化のバランスをどのように考えていますか。
桜井 当社の酒造りでは、可能な限り数値化し、機械の方が手作業よりも品質が安定する工程では機械も使用します。これは、杜氏などの一部の技術者だけが知っていた酒造りを「見える化」し、品質を安定させ、再現性を高めるための工夫であり、単なる効率化ではありません。
実は、当社の製造スタッフは200人超と、酒蔵の中では断トツに多いです。同じ規模の酒蔵と比べると、およそ4倍にもなります。例えば、最高級「純米大吟醸 獺祭 磨き二割三分」は、酒米の外側を77%磨いた芯の部分だけを使います。その米に水を吸わせる「洗米」では、洗米後の米の水分を0.3%以下の精度で厳密に調整します。この吸水率の管理は機械ではできないため、手洗いで行っています。ですから、人手も時間もかかります。
もし伝統的な手法にこだわっていたら、ここまで成長できていません。かといって、フルオートメーション化したら成長できたかというとそれもないでしょう。急成長や日々の工夫・改善に機械が対応できないからです。
磯和 確かに、フルオートメーション化したら、機械を入れ替える設備投資が追い付けなかったかもしれませんね。データと機械、人の力の融合が大きな成長を実現できた秘訣といえそうです。
非金融領域で多数のデジタル子会社がSMBCグループに誕生
桜井 SMBCグループでは、これまでどのようにデジタル化に対応されてきたのでしょうか。
磯和 初めは、12年にこれからの時代の変化に対応するため、「IT・ネット化戦略タスクフォース」を設置し、金融業界の未来予想図を作り始めました。もともと金融業界はデジタルとの親和性が高く、内部の効率化におけるデジタルの活用は順調に進み、次第にお客さまのデジタル活用の支援に力を入れるようになっていきました。
17年からは、SMBCグループ内にCDIOという役職が設けられました。初代のCDIOが現CEOの太田で、私が3代目になります。これ以降、テクノロジーの進展によって金融と非金融の境目が曖昧になってきたため、SMBCグループでも非金融のフィールドで新たなビジネスやサービスを立ち上げるようになっていきました。
現在は、非金融領域で多数のデジタル子会社が誕生し、さまざまな領域でお客さまのビジネスを支援できるようになっています。例えば、契約業務をオンラインで完結できる電子契約サービスを手掛ける「SMBCクラウドサイン」や、中堅・中小企業のデジタル化を支援するための各種デジタルサービスを提供する「プラリタウン」などがあります。
◎SMBCグループの主な各種デジタルサービス
桜井 デジタル化やデータ活用は一足飛びにはできないですね。当社も階段を一つ一つ上がっていくように進めてきました。