プライドや工夫が「獺祭」の付加価値を生む
磯和 「獺祭」は欧米やアジア諸国でも高く評価され、そのブランド価値は高く、日本酒の中では、ロレックスやエルメスなどにも匹敵する知名度となっていますが、今後の展開についてはどのようにお考えですか。
桜井 製造スタッフ2~3人がチームを組んで行う最高級の「獺祭」造りを計画中です。酒造りの匠としてプライドを持って仕事ができる環境を整えるため、新たに酒蔵を建てる予定です。10~13チームを編成し、それぞれが個性を出すことによって「獺祭」の付加価値をより一層高めていきます。
当社は純米大吟醸酒に特化した酒蔵として成長してきましたが、国内外ともに「ワインに押されっ放し」という状況は変わっていません。例えば、東京や京都の高級店といわれる日本料理店やすし店は、ワインへの傾斜を強めています。それは、ワインに比べて日本酒は安く、お金が取れないからです。世界でワインと戦っていく上で、高価格帯の日本酒がない、というのは致命的です。そのために必要なのは酒造りの技術というよりも、日本の伝統・文化に加え、造る人のプライドや哲学、工夫による付加価値だと考えています。
磯和 まさしく、御社の取り組みには、人口減少で国内市場が縮小する中、日本の企業が海外で成功するためのヒントが数多くあると思います。
社会課題解決の先に企業の成長がある
桜井 SMBCグループでは今、どのようなデジタル戦略を描いていますか。
磯和 目標としているのは経済的価値と社会的価値の創出です。特に23年から始まる新中期経営計画では、「Fulfilled Growth=幸せな成長」をキーメッセージとして掲げ、「環境」「DE&I・人権」「貧困・格差」「少子高齢化」「日本の再成長」といった社会課題解決への取り組みを強化していく方針です。
デジタルは手段の一つにすぎませんが、大きな力を秘めています。SMBCグループでも「Beyond & Connect」といった考えを大切にしておりますが、デジタルを通じて多様なパートナー企業やユーザーとつながることで、社会課題を解決するソリューションを提供できるように努めていきます。
桜井 社会課題解決の先に企業の成長があるということですね。持続的な成長や海外展開において非常に重要なテーマだと思います。
磯和 余談ですが、実はSMBCでは9年前に緑色の川獺(カワウソ)「ミドすけ」をキャラクターに導入しました。その際、「銀行で『ウソ』はいかんだろう」といった意見もありましたが、「あの有名な日本酒『獺祭』の由来もカワウソですよ」といった説明をしたことで、結局Goサインが出た経緯があるのです。
今では人気キャラクターに成長し、CMやLINEスタンプなどで大活躍しています。そうしたこともあって、今日はお会いできて光栄でした。これが「ミドすけ」です。せっかくですので、差し上げます(笑)。
桜井 とてもうれしいエピソードですね。光栄です。「獺祭」とは「詩文を練るために書物や参考資料を広げること」を意味する言葉。それは、カワウソが捕った魚を河原に並べる様子が神様にお供えし、祭りをしているように見えることに由来します。もしかしたら、御社グループの商品パンフレットを並べて検討しているお客さまの姿を彷彿(ほうふつ)とさせるのかもしれませんね(笑)。
◎磯和啓雄(いそわ・あきお)
三井住友フィナンシャルグループ執行役専務・グループCDIO。1990年東京大学法学部卒。三井住友銀行に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ、デビットカードの発行やインターネットバンキングアプリのUX向上などに従事。その後、トランザクション・ビジネス本部長としてBank Pay・ことらなどオンライン決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年から現職に就任し、SMBCグループのデジタル推進を牽引している。
◎桜井博志(さくらい・ひろし)
旭酒造会長。1950年山口県周東町(現岩国市)生まれ。1973年に松山商科大学(現松山大学)を卒業後、西宮酒造(現日本盛)での修業を経て76年に旭酒造に入社したが、酒造りの方向性や経営をめぐり、当時の社長である父親と対立して退社。84年父親の急逝を受けて実家に戻り、純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営再建を実現。2016年から現職。2023年4月米国ニューヨーク州に酒蔵をオープンし、米国生産の「DASSAI BLUE」(獺祭ブルー)の完成を目指し現地で陣頭指揮を執っている。著者は『逆境経営』(ダイヤモンド社、2014年)、『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(KADOKAWA、2017年)がある。