自身の経験の中で導き出されたCFOの役割を、吉松氏は「サステナビリティ経営軸」「機能軸」「課題軸」の3軸で表現する。サステナビリティ経営軸とは企業価値を持続的に向上させていく軸で、機能軸はCFOが担当する人と組織の軸、そして経営体系や組織体制を整えた上で日々浮上する経営課題が課題軸である。この3軸から網羅的に俯瞰したCFOの役割に対処する際の基本姿勢として、価値観としてインテグリティ(真摯・高潔・誠実)を重視するとともに、財務を担当する役員として最善の経営結果を志向しながら定量的な経営管理を行っていくことが重要だと吉松氏は説明した。


吉松氏が示すCFOの役割である3軸と、グローバル企業のCFOにおける基本姿勢や戦略課題(吉松氏の講演スライド資料より抜粋)
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 続けて吉松氏は、現在多くの日本のグローバル大企業のCFOに共通する戦略課題は「経営と経営管理の高度化」「3G(グループ・グローバル・ガバナンス)の強化」、そして成長戦略の一環でもある「M&AとPMIの推進」と説明する。

 また、意思決定支援の高度化とグローバル経営管理体制の構築について吉松氏は、ガートナーが示す成熟モデルを基に、「説明分析」に始まり「診断分析」「予測分析」そして「処方分析」の4段階があると解説しつつ、日本企業全般の傾向として2段階目の診断分析は非常に精緻かつ正確に行える一方、3段階目(予測分析)と4段階目(処方分析)には大きな困難を感じていると指摘。「分析力の高い日本企業のCFOにとっては2段階目(診断分析)と3段階目(予測分析)の間に壁があるのではないか」と問題を提議した。そして、その上で、経営の意思決定支援をどのように進化させていくかについて、「企業変革」や「管理会計」に関する理論も交えながら、ニデック時代の構造改革「WPR2」(ダブル・プロフィット・レシオプロジェクト、利益率倍増)の取り組みを紹介した。

 セッション後半では、いかにしてCFO人財を育成していくかという課題の中で「学びの重要性」について言及がなされた。「今ほど学びが重要性を増している時代はない」と力説する吉松氏は、その背景として、技術革新の劇的な加速やDXの進展、AI活用に伴う従来のノウハウやスキルの陳腐化などを挙げた。

 そして最後に研究事例として、ニデックとブリヂストンにおける自身のCFOとしての取り組みなどを紹介し、「私自身の実務経験に基づく内容が中心であったが、少しでも皆さんのご参考になれば幸いだ」と講演を締めくくった。

高まるリスクに備え
日本が一丸となって対応するには

「パンデミック後のリスクシナリオ」と題したパネルディスカッションでは、企業の業績に直接的な影響があるサプライチェーンとエネルギーのリスクにフォーカスしつつ、最新の状況や今後の見立てについて活発な議論が行われた。

 モデレーターを務めたのは一般社団法人日本CFO協会/日本CHRO協会シニア・エグゼクティブの日置圭介氏。そこに日東電工執行役員CPO兼業務改革本部長(収録当時)の髙渕秀郎氏と、経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部長の井上博雄氏を迎えてディスカッションが進められた。