日東電工
執行役員 CPO 兼 業務改革本部長
(収録当時)
髙渕秀郎氏

 昨今のリスクトレンドを振り返りつつ日置氏は、直近のリスクとしてインフレや地政学上の対立を挙げるとともに、長期的視点からは気候変動や生物多様性なども脅威になると述べた。そして、こうした「インターコネクション」(リスクの相互接続関係)や、「ポリクライシス」(さまざまなリスクが複合的な影響を及ぼすこと)といった性質を帯びたリスクへ対処するためのキーコンセプトとして、従前からの「デ・カップリング」に加え、「デ・リスキング」を挙げた。

 高渕氏と井上氏も同意を示すと、まず高渕氏が日東電工での取り組みを紹介。地政学リスク、化学物質規制、サステナブルな原料の調達・活用という大きな視点から将来を予測し、そこからバックキャストしながら、可能な限りリスクの影響を受けないような経営体制づくりに取り組んでいると説明。「1社だけでは難しいので、国や行政の力を借りながら、各企業が連携してこうしたサプライチェーン・リスクに備えていく必要があるのではないか」と述べた。


将来像から逆算することで潜在リスクを洗い出し、対策を講じていく必要がある(パネルディスカッションのスライド資料より抜粋)
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経済産業省
資源エネルギー庁
省エネルギー・新エネルギー部長
井上博雄氏

 これを受けて井上氏は、ウクライナ危機で多くの企業も直面したエネルギーや原料物資の供給途絶リスクに、国と企業がどのように備え取り組んでいくべきか、こうした問題意識も踏まえ、日本政府が推進しているグリーン・トランスフォーメーション(GX)の具体策や、日本の経済安全保障を包括的に強化することを目指して2022年5月に成立した経済安全保障推進法など、政府の取り組みを紹介。「米中の対立など地政学リスクも含めて政府でも対策を整えつつあるので、多くの日本企業と密に議論し行動していくことが大事だと考えている」と強調した。

 エネルギーに関するリスクについては、グローバルに、そして先を見た官民連携による備えと対策の重要性に加え、世界中がカーボンニュートラルを目指していく中にあって、自社のCO2排出状況などの「可視化」が非常に重要であるという、3者の共通意見が示された。

 ディスカッション終盤には、これからの日本のチャレンジをテーマに熱い議論が交わされた。高渕氏は、変化の時代を受けて、日東電工では重点分野として「パワーモビリティ」「デジタルインターフェース」「ヒューマンライフ」の3つを掲げ、今まさにESGのトップ企業となるべく取り組んでいると紹介。困難に立ち向かう際の企業間連携や企業理念、能動的な姿勢の大切さを強調した。

一般社団法人日本CFO協会/日本CHRO協会
シニア・エグゼクティブ
日置圭介氏

 井上氏も、経済産業省が提唱する脱炭素社会に向けた取り組みであるグリーン・トランスフォーメーションをはじめとした、さまざまなトランスフォーメーションの実現に向けて、「国としても徹底的に支援していきたい」と力説。これに対して日置氏は「そのためにも、日本としてどうしていくかという議論の場づくりを引き続き行っていきたい」と答えた。

「攻め」と「守り」から考える
リスクマネジメントで企業が果たすべき役割

 最後のセッションとなる特別対談「コーポレートが果たす役割とリスクマネジメント」には、東京都立大学大学院経営学研究科特任教授(元デュポン取締役副社長)の橋本勝則氏と、パネルディスカッションに引き続き日置氏が登壇。不確実性が増していく時代における企業の役割を踏まえた上で、リスクマネジメントについて体系的に概観し、日本企業に見られがちな問題点を指摘しつつ、どのように進化させていくべきかを討論した。