まず、企業として欠かすことのできないリソースアロケーション(経営資源配分)を実践していく上で重要な要素として、「先を読む」「組織を整える」「リスクを捉える」の3つが挙げられた。それぞれの要素について説明した橋本氏は、改めてリスクについて「シナリオ思考に基づいて、リスクとチャンスの双方をしっかりと把握しなければならない。そのためにも組織としての網羅性を持った共通理解をどう醸成するかが課題」だと強調した。

「先を読む」とはつまり、今後の事業ポートフォリオを考える際の前提となるメガトレンドを読み、それに基づいて自社の強みやバリューにフォーカスして事業を成長させることだといえる。「組織を整える」については、“One Company思想”での最適機能配置と、仕組みによる事業軸とコーポレート機能軸のマトリックスの構築、強いマネジメントチームの組成、ゲーム・チェンジに向けた人事・処遇制度改革が重要だ。

東京都立大学大学院
経営学研究科 特任教授
(元デュポン取締役副社長)
橋本勝則氏

 そして今回のメインテーマでもある「リスクを捉える」においては、シナリオ思考でリスクと機会を把握するとともに、シンプルな判断と評価基準、属人ではなく組織として網羅性を持った共通理解、うまくいかない前提で計画の軌道修正を可能にすることの4点が必要だと日置氏は説いた。

 討論の中心は、リスクマネジメントにおける「攻め」と「守り」へと移っていく。まず日置氏は、橋本氏が経験したデュポンのリスクマネジメントは「安全と健康」「最高の企業倫理」「地球環境の保護」「人の尊重」の4つがコアバリューとして定められ、どれもが企業活動の基盤・土台として有効に機能していると述べた。

 こうしたコアバリューの上にこそリスクマネジメントが成り立つ。橋本氏は「リスクマネジメントは決して特別なことではない。多くの人々が普段から実践していることを、いかに共通言語として網羅性を持って実践していくかがポイントである」とした。

「攻め」のリスクマネジメントついて橋本氏は、具体的かつ科学的に数字を用いてマネージしていくことの大切さについて説明するとともに、「守り」に関しては、スピークアウト(遠慮なく正々堂々と意見を述べること)文化の不十分さなどを挙げた日置氏の意見に同意し、「もはや現状維持イコール衰退であるという感覚を持つべきだ」と力説した。

リスクマネジメントは盤石なコアバリューがあってこそ成り立つ(特別対談のスライド資料より抜粋)
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 熱い議論が繰り広げられる中、日置氏の提案により“BEYOND DX”、DX以降の世界も話題に上がることになった。BEYOND DXの世界ではAIをはじめとしたDXの進展を受けて、ビジネスにおけるプロセスは次々と自動化されていく。だからこそ「人間にしかできない部分に対するプロフェッショナル意識がますます重要になってくる」と橋本氏は強調した。

 最後に日置氏が「今回の対談を、自社が抱えるリスクを改めて整理し体系化した上で、可能な限り準備を行いながら、グローバルなビジネスシーンにおける自社の今後の戦略について検討するきっかけにしていただければ」と締めくくった。