原点をたどれば、430年を超える長い歴史と伝統を持つ駒澤大学。仏教の持つ“智慧(ちえ)と慈悲”の精神が大学の根幹にあり、学生も体験する坐禅は、重要な学習経験と人格陶冶(とうや)の基礎となる。全3回シリーズの第1回は、仏教学部禅学科の角田泰隆教授に、曹洞宗の開祖である道元禅師の教えが、現代人にもたらすものについて聞いた。
角田泰隆教授
駒澤大学の建学の理念は、「仏教の教義および曹洞宗立宗の精神に基づく教育を行う」というもの。その建学の理念に基づいて、全学部の1年次に「仏教と人間」が必修科目になっている。角田泰隆(つのだたいりゅう)教授は、学生たちに課題レポートを提出してもらうという。
「授業では、まず人生問題の『四諦(したい)説』による解決法について教えます。四諦とは、苦諦(くたい)(人生は苦である)、集諦(じったい)(苦の原因は妄執にある)、滅諦(めったい)(苦の原因を除けば苦は消滅する)、道諦(どうたい)(苦を消滅させるための実践)のこと。つまり『四諦説』とは、仏教で説いている現実問題の解決方法です。今日のPDCAサイクルと似ていますが、仏教では2500年前からすでにそれを実践していた。授業では、考えた解決方法を実践させることを大切にしていて、実際に学生たちの多くが苦しみから抜け出すなど高い効果を生んでいます」
現実の状態(どのような負の問題を抱えているか)を自覚し、その原因と解決方法を考え、それを実践する。苦の原因は妄執にあることが多いので、物事への執着から離脱することで、苦から逃れられる。仏教とは、実は極めて実践的な教えなのだ。
駒澤大学のかつての校名は「曹洞宗大学」であり、曹洞宗の開祖は道元禅師。その道元禅師が青年時代、比叡山での修行時代に抱いた疑問があるという。“私たちは本来、仏と同じ心を持ち、仏と同じ体を持っている”と教えているが、そうであればなぜ修行をする必要があるのか。その疑問を解決するために、道元禅師は中国に渡った。