若手会計士の“監査離れ”進み
中小の半数以上がバイト監査
四大は時給制が多く、冒頭のあずさでは時給6000円が基準だった。それが1%、額にして60円上がったという。
また別のヤメ四大は、「四大は中小に比べて安いものの、全体として時給や日当は上がっている。東京勤務で繁忙期、中小監査法人であれば日当10万円という話もあった」と明かす。
四大のバイト監査は、1日の稼働が7時間ほどだ。時給をあずさの6000円前後とすると、四大の日当相場は4万~5万円の計算になる。
ただし、四大でバイト監査をすると、別の監査法人での掛け持ちは禁止だ。その代わり、残業代が時給の割り増しという形で付くし、10日間ほど有給休暇をもらえることもある。そのため、「中小よりもお得感がある」と冒頭の会計士は話す。
バイト監査の募集は、3月決算の上場企業の監査が終わる6月ごろからスタートする。多くの監査法人は、この時期に監査クライアント数や必要な会計士数を精査。そこで足らない会計士数が分かり、人づてにヤメ四大を探し、会計士を確保するという。
その際、「今年は何日売ってくれますか」という形で声が掛かる。アルバイトの身分ではあるが、監査クライアントの倉庫で在庫の確認をしたり、その会社へ出向いて経理や財務の社員に数字の根拠を聞いたりしなくてはならない。1日拘束されるため、日数を売買するという感覚になるのだ。
バイト監査には、監査先で使う名刺も用意される。肩書は単に「公認会計士」と記されていることが多い。そのため、監査クライアントは、その会計士がアルバイトだとは気付かない。
債権者や投資家の判断を左右する監査を、バイト監査に頼らざるを得ないのはなぜなのか。それは恒常的な会計士不足があるからだ。
会計士にとって、活躍の場は監査法人だけではない。財務と会計の専門知識を生かして、コンサルタントとして活躍する道もあるし、一般企業やベンチャー企業の財務担当役員としても重宝される。
監査は会計士の本分だが、顧客からはあまり喜ばれず、若手からは人気がない。そのため、監査を担う会計士は常に不足している。
加えて、この3年、上場企業は四大から準大手、準大手から中小監査法人へと監査法人を変更している。そのため、中小監査法人では特に会計士不足が深刻化している。
そこで中小監査法人は、上場会社の監査を行った経験のあるヤメ四大をかき集めることが、春の恒例の仕事となっている。故に、中小監査法人は、バイト監査の比率が高止まりしている(下図参照)。
正式な採用ではなくアルバイトとして雇うのは、繁忙期を過ぎれば、逆にヤメ四大を食わせるだけの仕事がなくなるからだ。多くの会社が3月決算であることが、こんな形でしわ寄せされているのだ。
ヤメ四大にとっても、アルバイトは都合が良い。
四大は給与が高く、大企業の監査に関わることもできる。グローバルネットワークに属しているため、世界の最新の監査手法やトレンドの情報も手に入る。そんな恵まれた立場を捨てた理由について、多くのヤメ四大は昼夜なく働く激務から解放されるためだと話す。
冒頭のヤメ四大は「繁忙期は朝9時半にはクライアントのオフィスで業務を始め、夕方に監査法人の事務所に戻ってそこから夜11時半まで調書をまとめ、自宅に戻るのは深夜1時すぎという生活が続く。これからサステナビリティー情報の開示が義務化され、監査現場の忙しさはさらに増すかもしれない」と話す。
その一方で、バイト監査は、自分がやりたいことに時間を割ける。もし稼ぎたいなら、中小監査法人数所でバイトを掛け持ちすればいいのだ。
実際、日当7万~8万円の中小監査法人に、年間40~50日を“売却”した場合、それだけで280万~400万円は稼げる。自らの経験を生かして監査意見を取りまとめるインチャージを担えば、日当はプラス2万~3万円だ。その場合は360万~550万円が手に入る。
起源はウィング?
金融庁からは撲滅対象に
加えて、監査法人の正職員として監査を担うといや応なく受けるプレッシャーからも、バイト監査は解放される。
「現場の会計士は、減損の判断など厳しい判断を避けてほしいクライアント、適正な監査とクライアントとの契約維持を要求する上司、厳正な監査を求める金融当局の3方向からプレッシャーを受ける」(前出とは別のヤメ四大)。バイト監査の立場なら、その板挟み状態に苦しむこともないのだ。
他にも、四大を辞めて独立すると得るのが難しくなる、上場企業の最新のビジネスモデルや事業のトレンド、最新の監査手法などの情報を仕入れることができるといったメリットもあるという。
こうして監査法人とヤメ四大の利害が一致し、バイト監査の存在は監査法人の中では大きなものになっている。ただし、金融庁や公認会計士協会、公認会計士・監査審査会にとっては、撲滅すべき対象である。
2009年に解散した監査法人、ウィングパートナーズは、継続企業の前提に疑義の注記が付されている企業など、どの監査法人も門前払いする上場会社の監査を引き受けていたため、「駆け込み寺」ともいわれていた。
だが、運営が著しく不当だとして、金融庁は業務停止処分を発出。それがきっかけとなり解散となった。そのウィングが活用していたのがバイト監査だった。事情に詳しい会計士は、「バイト監査の起源を探るとウィングにたどり着く」と話す。
もっとも、金融庁がいくら目の敵にしても、バイト監査はなくならない。前述した会計士不足などの課題が解決されておらず、監査法人とヤメ四大の利害が一致する状況が続いているからだ。
これから繁忙期を迎える監査法人業界。ヤメ四大のバイト監査は、今年も重宝されるだろう。
Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic:Daddy’s Home





