大手会計事務所のアーンスト・アンド・ヤング(EY)が9月、監査とコンサルティングの両事業を分離すると表明した。監査の独立性確保が表向きの理由だが、真の狙いはどこにあるのか。そして分離の動きは他の四大にも波及するのか。特集『会計士・税理士・社労士 経済3士業の豹変』(全19回)の#7で、その真相を探る。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
「自らディスラプトを起こしていく」
EYジャパンCEOが衝撃を受けた分離検討案
「ストロングポジションにいる今こそ、自らディスラプト(破壊的イノベーション)を起こしていく」
昨年11月、四大国際会計事務所の一角を成すアーンスト・アンド・ヤング(EY、統括本部:英ロンドン)で、グローバル会長兼CEO(最高経営責任者)のカーマイン・ディ・シビオ氏や主要15カ国の経営トップらが集う最上位会議が開催された。
会議に出席した日本事業の統括者、EYジャパンチェアパーソン兼CEOの貴田守亮氏は、その場で交わされた冒頭の発言とある計画に「え?今?」と驚きを隠せずにいた。
それもそのはずだ。
その会議を契機にEYは、監査とコンサルティングの事業を分離する検討に入ったのだ。分離に向けたフィージビリティースタディー(実現可能性や採算性などの調査)の実施が決まり、年明けから着手。今年8月までに調査を終え、EYの各国ファームで今、分離か否かの議論が繰り広げられている。
EYグローバルの2022年6月期は、売上高に相当する業務収入が史上最高水準の454億ドル(約6兆6000億円)。前期比16.4%増という、過去約20年間で最高の伸びをもたらした。
コンサル事業は、この業務収入の約3割を占める。日本においても、4割以下だったコンサル収入を監査と同規模に伸ばす計画が進行中だ。競合のデロイト トーマツ コンサルティングから19年にEYジャパンに電撃移籍した近藤聡氏は、ダイヤモンド編集部の21年のインタビューで「(競合と)同じ土俵で戦えるような布陣にすることがまずは一番だ」と語っていた(『元デロイトの超大物コンサルが「電撃移籍の真相」とEYの秘策を初告白』参照)。
コンサルを成長ドライバーとし、EYは確かに世界の「ストロングポジション」を手にしようとしている。それが故になおさら、「なぜ」という疑問符が付きまとう。なぜ、このタイミングで監査とコンサルを分離するのか――。
ダイヤモンド編集部は、キーパーソンである貴田氏に取材し、その問いをぶつけた。
さらに、分離の動きはデロイト トウシュ トーマツ、KPMG、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)という他の四大にも波及していくのか。各ファームの日本代表にも直撃した。
取材から浮かび上がったのは、EYが突如打ち出した分離構想の裏で錯綜する、会計士のトップエリートたちの思惑だ。次ページからそれを解き明かしていく。