企業理念に裏打ちされた
カルチャーを醸成する

山本:ストーリーで理念を浸透させ、それをいかに従業員一人ひとりのアクションに結び付けていくか。そこで、行動指針を定義する企業も増えていますが、注意点はありますか。

佐宗:企業理念や価値観と同様、行動指針を掲げるだけでは人は動きません。それが企業文化とかけ離れていればなおさら、従業員にしらけムードが漂い、指針は建前に終わってしまいます。

山本:当社でも「ヤプリっぽい」「ヤプリらしくない」などとよく口にしますが、組織のカルチャーを示す「らしさ」を言語化することはとても難しいです。それをいかに共有していけばよいでしょうか。

佐宗:企業文化は、「受け継がれてきた組織の癖」であるともいえます。その集団でリスペクトされている人の立ち居振る舞いをほかの人が真似ることから始まり、そこに自己流のやり方が無意識に加わることで、自分自身の中にもすり込まれていく。それが組織のあちこちで繰り返されることで、企業文化というカルチャーが醸成されていくように思います。

 企業理念のオーナーシップは経営側に、企業文化は現場側にあるからこそ、組織の中に点在する企業理念を体現するような「カルチャーのタネ」に着目していただきたい。それを見つけてみんなで共有し、称賛することで、自社らしい企業文化が育っていくのではないでしょうか。

山本:実際にYappli UNITEを利用されているある企業からは、店舗スタッフが発信したエピソードを紹介し、みんながいいねやコメントをつけることで、自社らしさを体現する行動を称賛するカルチャーづくりを進めたいというご要望をいただいています。
 

佐宗:コロナ禍以降、会社にコミュニティとしての機能が求められるようになったことも、企業文化の醸成という点で注目すべきでしょう。

 社会全体でコミュニティが希薄化し、サードプレイスと呼ばれる自分の居場所と感じられる場が減少しています。そのサードプレイスで主に形成されてきたウィークタイズ(緩やかなつながり)が、会社の中にも求められるようになっているのです。それゆえ、社内のコミュニティ機能があらためて注目されています。

山本:当社でも、クラブ活動やリアルとデジタルを融合した社内イベントなどを多く開催しています。そこから部門や役職を越えた会話や交流が始まっていますね。

佐宗:ちなみに、若い世代がよく使う言葉に「バイブス」がありますが、まさに価値観を共有した人とのポジティブな以心伝心を表します。バイブスが同じ職場だと働きやすいし、何より楽しい。「誰と一緒に働くか」を大事にする世代が増えているからこそ、「何を一緒に成し遂げるか」も重要です。その核となるのは、やはり企業理念なのだと私は思います。

 ただし企業理念は常に、時代と組織の成長に合わせて「進化」させる必要もあるでしょう。そのためには、従業員との対話が不可欠です。経営者にいま求められているのは、企業理念という「みんなの物語」が生まれるための対話の仕組みをどうデザインするか、ではないでしょうか。

山本:Yappliというワンプロダクトで成長してきた当社も、10年目の節目を迎えて、マルチプロダクト、マルチサービスへの挑戦へとステージが変わっています。ボトムアップから新しいものが次々と生まれてくるような土壌をつくり、成長を加速させていきたい。当社が新たに加えたバリュー「ゼロトゥワン」に、そんな思いを込めています。

 

◉企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部
◉構成・まとめ|江口陽子 ◉撮影|佐藤元一