DXの進展などにより、新たなビジネスモデルや新たな市場が次々に生まれている。経営環境の変化によって企業は変革を迫られているが、その解は過去からの延長線上にないことが多い。そうした中、変革の手段として注目を集めているのがM&Aだ。企業変革のためのM&Aを成功に導くポイントは何か。M&A支援で実績豊富なPwC Japanグループの久木田光明氏と香川彰氏に、「週刊ダイヤモンド」元編集長の深澤献が聞いた。
M&Aはケイパビリティーを買って成長を目指す手段である
――今、M&Aが大きな注目を浴びています。なぜ、事業成長のためのM&Aが必要なのか、その背景についてお話しいただけますか。
久木田 企業を取り巻く外部環境がドラスチックかつスピーディーに変化している現在、通常のオーガニックな道筋だけでは事業成長を実現できない現実があります。そうした中で、外部のケイパビリティーを買うことでいち早く成長を目指すM&Aが、これまで以上に強く求められているのだとみています。
香川 日本企業という観点から補足をするなら、自社で事業を創り育てる「自前主義」だけでは立ち行かなくなったということでしょう。激しい環境変化によって社会が変わりつつある中、他社と協力して新たな時代にマッチした事業を創っていくことの重要性が高まっているのだと思います。
――外部からケイパビリティーを取り入れて新たな成長にシフトしていく事例には、どのようなものがあるでしょうか。
久木田 直近のものとしては、例えば大手生命保険会社が介護事業会社を買収するという大型M&Aがありました。他にも、通信会社が金融事業に参入するなど、異業界のケイパビリティーを掛け合わせてまったく新しい世界を創っていくという流れが生まれてきています。
これまでは、どちらかといえばシェア拡大のために同業他社を買収するケースが多かったのですが、現在は産業の構造不況や成長自体の限界を打破することの方に、M&Aの目的が変わってきていると感じます。
――成長戦略の変化がM&Aに表れているということですね。香川さんはどうみていますか。
香川 自動車メーカーの競合は、今はテック企業といわれています。「自動車とIT」のように、かつては思いもしなかった事業の組み合わせが、現在はさまざまな産業で真剣に模索されているのではないでしょうか。
成果を出すために必要な「M&Aレディネス」とは
――一方で、M&Aによって成果を出している企業と出せていない企業に分かれるように思います。その差はなぜ生じるのでしょうか。
久木田 ポイントは二つあると思います。