難しい作業工程表を量子コンピューター技術でたった2分で作成

総合商社だからこそ提供できる「総合サービス」 住友商事の「SOSiLA」が探る新たな物流の在り方左から住友商事 物流ソリューション事業ユニット デジタルロジスティクスチーム シニアアソシエイト 野明千晴氏、物流ソリューション事業ユニット統括 犬山直輝氏、物流ソリューション事業ユニット デジタルロジスティクスチーム サブリーダー 田中紀恵氏、同チーム 下岡美紀子氏

 物流施設内のDXも進んでいる。「SOSiLA中央林間」には、同社が開発した物流現場効率化ソフト「スマイルボードコネクト」が導入されている。これは、物流現場で働く従業員の「個人単位のスキルデータ」をもとに各工程の進捗をリアルタイムで可視化するダッシュボード機能や、スキルデータを活用して作業計画を作成する機能など、さまざまな機能を搭載した物流現場を効率化するツールだ。

 犬山直輝物流ソリューション事業ユニット統括は、「私が17年から21年まで住友商事グループの物流会社で社長を経験したとき、自分が感じた物流現場の課題を解決したいという思いから誕生したツールです」と経緯を話す。

総合商社だからこそ提供できる「総合サービス」 住友商事の「SOSiLA」が探る新たな物流の在り方住友商事 物流ソリューション事業ユニット統括 犬山直輝

「物流の現場は労働集約型なのでコストの大半が人件費。ですから人件費削減の要望も強いのですが、この業界では昔から働き方がまったく変わっていないことに気付いたのです。経験則に基づいて計画表をホワイトボードに書いたり、シフトを考えたりしていましたが、個人の能力によって作業量は違います。それらを具体的に計画表に落とし込むのは難しく、時間もかかっていました」

 犬山ユニット統括は、現場の管理そのものを高度化し、データに基づいた最適な判断をして働き方を変えないといけないと感じたという。

 そうした課題を解決すべく生まれた「スマイルボードコネクト」は、作業員一人一人のスキル、能力値などをデータベースとして蓄積し、それらをパラメーターにして、最適な作業計画、人員の配置を作ることができる。この「最適配置機能(オプション)」は、膨大な組み合わせから最適解を見つける「量子アニーリング」という量子コンピューターの技術やAIを使って最適な人員配置を提案する。

総合商社だからこそ提供できる「総合サービス」 住友商事の「SOSiLA」が探る新たな物流の在り方「スマイルボードコネクト」の作業計画機能の画⾯。作業計画、現場での指示、作業実績を一元データ管理。クラウドでリアルタイムに進捗管理もできるのでトラブルが起きてもすぐに対応できる
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「例えば100人の現場だと、以前は現場のリーダーが頭を悩ませながら、半日以上かけたりして作業工程表を作成していました。しかし、このツールを使えば2分ほどで最適解が表示されます。さらに、作業者から反発が出ても、(量子コンピューターという)一番賢いコンピューターの判断なので、まずはこれでやってみてと言えると、すごく喜んで使っていただいています」(犬山ユニット統括)

「スマイルボードコネクト」のさらなる開発・普及を急ぐ背景には、深刻な人手不足に見舞われる一方で、スポットで仕事を請け負う短時間の労働者が増えるという予測があるからだ。「これは不可逆な流れで、スポットワーカーの方たちにいかに気持ちよく働いてもらい、能力を発揮してもらうかが重要になってきます」(犬山ユニット統括)。そこで、正社員として働く人だけでなく、スポットワーカーの能力値を蓄積できる仕組みを開発している。完成すれば物流業界のみならず、さまざまな業界の人材マッチングに革命が起こるだろう。

働き方を可視化し
働く人を笑顔にするツール

 さらに重要な点は、「スマイルボードコネクト」が「人に注目したシステムであることです」と田中紀恵デジタルロジスティクスチームサブリーダーは語る。

「システムと聞くと人に対しては無機質な感じがして、現場のリーダーは、自分の担当のスタッフが、ないがしろにされるのではないかという不安を抱きます。しかし『スマイルボードコネクト』を詳しく説明すると、それぞれの個人が能力を発揮し、楽しく働いていただけるシステムだと納得されます。一方で、経営層にとっては、現状、属人化しブラックボックス的な現場を可視化でき、今後、生産性を上げたいという要望にも応えられるツールです」

総合商社だからこそ提供できる「総合サービス」 住友商事の「SOSiLA」が探る新たな物流の在り方住友商事 物流ソリューション事業ユニット デジタルロジスティクスチーム サブリーダー 田中紀恵

 だからといって、労働強化だけを目的としたツールではないと犬山ユニット統括は強調する。「普段からメンター的な役割も担う現場のリーダーに作業計画を作成する権限を委譲してこのツールを使ってもらいたい。個々の働き方が可視化されるので、いつもより多くの仕事をした人には『今日はよく頑張ったね』と褒めることができるし、逆に普段よりも作業のスピードが落ちている人には、声掛けをして体調不良なら休憩してもらうという気遣いができる。このような現場が実現できれば、作業者の方にもっと頑張ろう、明日もこの会社で働こう、この会社が好きだと思ってもらえる。当然ながら技術も習熟して、結果として生産性が上がります」。

 スマイルあふれる現場にしたいという思いが「スマイルボードコネクト」というネーミングに込められている。