なぜ、日本人は「睡眠への意識が低い」のか
――柳沢先生はかねて、日本人の「睡眠への意識の低さ」に警鐘を鳴らしてこられました。「高度成長期には日本人は今よりも睡眠時間が長かった」というデータを示し、バブル景気崩壊後の「日本の失われた30年」以降、日本企業が競争力を失った要因の一つは「日本のビジネスパーソンがきちんと寝なくなったからだ」とも……。それほど現代の日本人は眠っていないのでしょうか。
柳沢(S’UIMIN) 日本人は、OECD(経済協力開発機構)の調査によると、加盟国の中で最も寝不足な国民(※)です。それをスマートフォンとインターネットのせいにするのは無理な話で、インターネット普及以前から、日本人の睡眠時間は減少していました。
※経済協力開発機構(OECD)の調査「Gender Data Portal 2021」
森澤(アリナミン製薬) 実は私も、かつては「寝ないで仕事をする」ような働き方をしていた時期があります。当時の上司や同僚からは、「顔色が良くない」と心配されたこともたびたびありました(苦笑)。それでも、仕事をするうちだんだん分かってきたのは「寝ないといい仕事は絶対にできない」ということなんですね。ですから、今はどんなに忙しい中でも、睡眠時間を確保するよう気を付けています。特に経営者になってからは、ワーク・ライフ・バランスは当然のこととして「自分で自分の生産性を管理すること」が大事であり、誰しもが睡眠も含め「自分自身をいい状態に保つこと」が重要であると考えています。今、「アリナミン」製品に代表される当社で、その一助となるような仕事をしていることに誇りを感じています。
アリナミン製薬 代表取締役社長 CEO
柳沢(S’UIMIN) 私も自分の睡眠のコアタイムを「午前0~7時の間」と決めて、その時間帯は睡眠に充てるようにコントロールしています。そのルールを破ると明らかに生産性が落ちているのが自分でも分かります。
一般的に、誤解があるようなのですが、人によってコアの睡眠時間は違うもので、必ずしも朝型がいいとか、夜の22~0時をコアタイムに含めなければならないというわけではありません。「自分に最適な睡眠」を把握することが重要です。そこで、次のような方法で自ら実験することをお勧めしています。
まず、自分の最適な睡眠時間を見極めるには、最低3~4日、眠れるだけ眠ります。こうすると、寝不足でたまっていた「睡眠負債」を全て返して、4日目くらいで本来の自分の睡眠時間に落ち着きます。なかなかその時間が取れない場合は、普段より30分早く寝てみて、翌朝すっきり起きられるか。すっきり起きられないなら、さらに30分早く寝てみる、という具合に眠る時間を延ばして、すっきり目覚められた日の睡眠時間を把握します。
よく眠るための「三つの秘訣」は「暗くて、静かで、朝まで適温」です。エアコンは寝ている間、切ってはいけません。なお、私の寝付きを良くする秘訣は、大きな声では言えませんが、読まなくてはならない“つまらない論文”を読むことです。これであっという間に眠りに落ちます(笑)。
アリナミン製薬 常務執行役員 プロダクト戦略本部長
――共同研究の進め方はどのようになっていますか。
西窪(アリナミン製薬) 先ほど柳沢先生から「主観的睡眠と客観的睡眠が食い違う」というお話がありました。疲労に関しても「疲れていないと思っていても、疲れていた」とか、その逆も起こり得るので、客観的な数値を取るために、1年目はいろいろな強度・時間の運動負荷をかけた体での疲労と睡眠の関係をデータとして積み上げていきます。2年目には、そのデータを基に、疲れによって睡眠の質が低下する場合に、「アリナミン」に配合している抗疲労成分であるフルスルチアミンが睡眠の質にどう関係するのか、そのメカニズムについて詳細に検討していきます。
柳沢先生はいつも「真実は仮説よりも奇なり」とおっしゃっており、その精神で、研究の方向もデータの結果次第でフレキシブルに変更しながら、3年目には「もっとこういうところを掘っていけば面白い結果が得られそうだ」というところを、先生にアドバイスを頂きながら、深く追究して、その結果を発信していきたいと思っています。