簡単に大規模なエビデンスが取れる意義
柳沢(S’UIMIN) 一口に疲労といっても、肉体的な疲労、精神的な疲労などいろいろあります。まずは、強度や時間を数値化しやすい運動負荷による疲労に取り組むわけですが、睡眠のエキスパートである私たちと、筑波大学の疲労や運動のエキスパートの協力も得ながら、鋭い分析結果を出せたらと思います。疲労そのものについての学問は大昔からありますし、疲労も睡眠も、身近な現象ですが、それぞれのメカニズム、「疲労と睡眠の関係」はまだはっきり解明されていません。「体の疲労に脳がどう反応し、疲労を脳はどう感じているか」という根本的なメカニズムは、まだ分かっていないのです。その部分に切り込んで、解明の糸口をつかむことができれば素晴らしいと思います。
小久保(S’UIMIN) 「疲れると眠くなる、あるいは疲れ過ぎると眠れない、それはなぜか」という課題に対して、これまで適切なデバイスがないためにきちんとした実験ができなかったのが実情です。先ほども話が出ましたが、以前は入院して用意された検査室で大げさな装置を着けるなど、被験者の負担にもなりましたし、それが原因で大量のデータも取れませんでした。それがわれわれのデバイスならば、誰でも簡単に使えて、被験者の眠りを妨げずに「疲労と睡眠の関係」を調べることができます。これは大規模にエビデンス(科学的根拠)が取れるという点において、画期的なことだと思っています。共同研究では試験プロトコルの策定や睡眠の評価、結果の解析などをわれわれが担っていきます。
森澤(アリナミン製薬) まさに、手軽に誰もが自宅で睡眠を計測できるデバイスを持つS’UIMINと、ドラッグストアなどで誰でもすぐ手に取っていただけるOTC医薬品(大衆薬)などを扱っているコンシューマーヘルスケア事業の当社が、共同研究をして、生活者の方にとってのソリューションを追究できるということに、意義があると思っています。
柳沢(S’UIMIN) 1年目のデータを確認した後、2年目以降に、メカニズム解明を目的とした基礎研究も含め、さらに研究を深められるのも、今回の共同研究ならではだと思っています。これまでフルスルチアミンと睡眠の関係を検討した研究で一般的に知られているものはほとんどないので、その意味でも楽しみです。
西窪(アリナミン製薬) これまでの当社の研究では、フルスルチアミンが疲労回復に関わっていることは分かっているのですが、「睡眠にも効果があるのか」という点で、新しいエビデンスをつくっていくことができればと思っています。
森澤(アリナミン製薬) 当社にとっても、フルスルチアミンという成分は、70年にわたり、主力製品の有効成分であり、ある意味当たり前になり過ぎていたところがあります。今回、改めて研究をすることで、原点に返って、フルスルチアミンの研究に対するエンジンがかかったこともうれしい限りです。「アリナミン」があることで、さらに世の中に元気を与えていくために、柳沢先生やS’UIMINのお力をお借りして精いっぱい取り組みたいと思います。
睡眠は「住宅ローン」である
――共同研究で生まれた結果はどのように還元されますか。
西窪(アリナミン製薬) 当社のオウンドメディア(自社保有メディア)には、製品のお知らせやPRなどとは関係なく、純粋に学術的な成果を発信するウェブサイト「フルスルチアミン疲れLab.(ラボ)」や公式YouTubeチャンネル「健康サイエンスch by アリナミン製薬」があるので、まずはそこで発信します。世界的に有名な柳沢先生との共同研究ということで、今回は、学会発表だけではなく、一般の方にも広く知っていただければうれしいですね。
――最後に「ダイヤモンド・オンライン」の主要読者であるビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
森澤(アリナミン製薬) 日本の疲労回復関連市場は、2023年に約1.2兆円と推計されるとのデータ(※富士経済のプレスリリース23095号)もあります。睡眠に悩まれている女性も多い。アジアにも目を向けると、疲れている人・睡眠に悩みを持つ人は、これからも増えていくでしょう。いろいろなソリューションにつなげられるように、研究成果を生かしていきたいと思います。
柳沢(S’UIMIN) 私が強調したいのは、睡眠というのは、「可処分所得」ではなく「住宅ローン」と同じということです。つまり、最初に「取り置いておかなければならない時間」であるということです。自分に必要な睡眠時間が7時間だとすれば、その7時間は絶対に確保して、差し引いた残りの時間を仕事、家事、自分の時間など、他の活動に充てていくべきなのです。それが多くの現代人は、他の用事で使い果たした、わずかな「残り時間」を睡眠に充てているのが実態です。「疲労と睡眠の関係」を解明する今回の研究が、皆さんのより良い睡眠、より良い生活に資するものになるよう努めたいと思います。
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