いったい彼はどんなマジックを使ったのか。鈴木氏は「チャレンジしたことは褒め、消極的なプレーをすると怒るという明確な基準を持っていたことが、若手の成長を促す力になった」と言う。

 ただし、「積極的にプレーしたからといって、必ずレギュラーに登用されるわけではありません。『やる気』と『実力』は別。その線引きは明確でした。でも、チャレンジを褒められれば、おのずと実力も付いてくる。結果を出すために成長させるという導き方は、企業の人材育成にも応用できるのではないでしょうか」と鈴木氏は提言した。

 ペトロヴィッチ氏は、選手とのコミュニケーションも大切にしていた。練習前には必ず選手とハグを交わし、「元気か? 最近はどうだ?」と声を掛けていたという。

 鈴木氏は「選手の状態を常に気遣い、観察をしていました。私の家族がケガをしたときも黙っていたのに『元気がないな』と気付きました。そして理由を話すと『自分たちはファミリーだ。そして自分たちの目的は自分自身や家族の幸せだろう。サッカーはそのための手段だ』と言われたんです。それで『この人に付いていこう』という気持ちにつながり、成長意欲をさらに高めたのだと思います」と振り返った。

 これも、体の健康だけでなく、心の健康(安心感)、社会的な健康(社会や組織とのつながり)まで満たされる「ウェルビーイング」の状態だといえそうだ。

経営者と従業員の視点から4つの領域に
アプローチする「健康経営アクサ式」

 鈴木氏の講演に続いて、予防医学研究者の石川善樹氏、アクサ生命保険の村松賢治氏による特別対談、「健康経営アクサ式 ~経営者・従業員が『人生』の目的を描き、実現に向かう~」が行われた。

「健康経営アクサ式」とは、アクサ生命が提唱する健康経営の実践方法である。

 村松氏は、「企業の永続的な発展と従業員のウェルビーイングを同時に実現することが、『アクサ式』のゴールです」と説明。

従業員の“生きがい”と“働きがい”を育み持続的に成長する組織へ「健康経営大会議」アクサ生命保険 アクサMCVP推進本部
HPM統括部 HPM事業開発部
シニアビジネスディベロップメントエキスパート
村松 賢治
1987年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了、修士(工学)。2012年アクサ生命保険入社。東海地方の自治体や民間企業に対する法人営業を経て、16年健康経営事業の企画・推進に携わる。17年より、東京大学未来ビジョン研究センターにて、健康経営に関する研究に従事し、23年より現職。現在は健康経営事業において、産学連携によるツール開発やデータ解析、海外展開を担当。東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員。主な委員活動は、経済産業省の健康経営基準検討委員会など。

 その実現のため、経営者と従業員の想いの調和を図り、従業員が健康と仕事の充実を両立させる。

 そして①経営者が従業員の心身の健康のためにできること、②経営者が従業員の働きやすさのためにできること、③従業員が自分の働きがいを高めるためにできること、④従業員が自分の健やかな暮らしのためにできること、の4つの領域にアプローチするのが特徴だ。

 具体的には、①予防医学などに基づく生活習慣の改善、②経営理念の浸透や人的資本経営の実践、③心理的安全性の確保やDE&I(多様性・公平性・包摂性)の実践、④地域とのつながりや経済的な安定、の4つの施策をバランスよく実施すると説明した。

 石川氏は、この健康経営アクサ式のアプローチについて、「一般には、①の生活習慣の改善だけに取り組む企業が多いようですが、体の健康だけでなく、心の健康や社会とのつながりまで考慮している点は、ウェルビーイングの実現にかなっているといえます。アクサ生命の健康経営の考え方が、経営者や従業員など、現場で人気であることがよく分かります」と評価した。

従業員の“生きがい”と“働きがい”を育み持続的に成長する組織へ「健康経営大会議」予防医学研究者
石川 善樹
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、米ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事。「人と地球が調和して生きるとは何か」をテーマとして、雲孫世代(8世代後)にまたがるような長期構想に取り組む。近著は、『むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました 日本文化から読み解く幸せのカタチ』(KADOKAWA)、『フルライフ』(NewsPicks Publishing)、『考え続ける力』(ちくま新書)など。

 村松氏は「日本社会のウェルビーイングの向上を目指して、健康経営優良法人認定ブライト500の経営者と学生をつなぎ、次世代を担う子供たちが働く意義・喜びを学ぶ機会を創る。」という新たな挑戦を紹介。

 最後に石川氏は「『健康管理』から『健康経営』の発想に転換することにより、アクサ生命が提示した4領域のように、経営者と従業員の立場、さらに次世代の子供たちまで、アプローチの範囲の広がりが期待できる」と提言した。