「構造的な差別」をいかに取り除くか?
続いて登壇したのは、アーティストで東京藝術大学美術学部デザイン科准教授を務め、ダイバーシティを支援するSaaSプラットフォームを提供するCradle(クレードル)代表取締役社長のスプツニ子!氏である。
「ウェルビーイング実現のためのファーストステップ」と題し、多様な人材が活躍する今日の企業におけるウェルビーイングの実践方法について講演した。
スプツニ子!氏
英ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院 (RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。2013年より米マサチューセッツ工科大学 (MIT)メディアラボ助教に就任し、Design Fiction Groupを率いた。東京大学大学院特任准教授を経て、現在は東京藝術大学デザイン科准教授。17年世界経済フォーラム 「ヤンググローバルリーダー」、19年TEDフェローに選出。同年Cradleを設立し、代表取締役社長に就任。
スプツニ子!氏は、まず、女性社員の生理による年間労働損失が、国内全体で4911億円にも上るというファクトを提示。
また、女性の3人に1人が更年期障害を理由に仕事を辞めようと思った経験があり、3人に2人は昇進を辞退したことがあるという調査結果を紹介した。
このように、社員の体の不調は、企業の成長や日本経済の発展にとって明らかにマイナスであるが、スプツニ子!氏は、「女性社員だけでなく、最近では男性の更年期障害の影響も増えており、問題はより深刻になっています」と警鐘を鳴らした。
こうした状況の中で、企業が社員のウェルビーイングを実現するために必要な取り組みも複雑化している。
働くのは男性、女性は専業主婦というのが当たり前だった昭和の時代には、主に男性社員だけの健康を考えればよかった。
しかし、今は女性人材の活躍が当たり前になり、LGBTQ、外国籍社員といった多様なバックグラウンドや、就業面、生活面など、異なる問題を抱えたさまざまな社員が働いている。つまり、ダイバーシティを進めるというのは、男vs女という働き方の話ではなくなってきていることなのだ。
スプツニ子!氏は「今や、ダイバーシティ推進は『昭和の働き方』vs『令和の働き方』と捉えた方が良い。育児や介護は女性社員だけの問題だと思い込みがちですが、今では若い男性社員たちも同じ悩みを抱えています。男と女で区別するのではなく、あらゆる社員に公平な支援を提供するのが令和の時代に求められる健康経営だといえます」と語った。
その上で、健康経営実践の障害となりやすいのが「構造的な差別」(Structural Inequality)だとスプツニ子!氏は指摘した。
構造的な差別とは、当人たちに差別する意識がなくても、社会や企業の構造によって、特定の性別や人種に不利な状況を招いてしまうことだ。
「例えば、女性の体調や生活スタイルに起因する問題などが、男性には気付かれないままに放置され、不利な制度やルールを押し付けられてしまうことです。構造的な差別の存在にいかに気付き、溝を埋めていくかが健康経営推進のための第一歩だといえます」(スプツニ子!氏)とアドバイスした。