さまざまなAI人財育成策を展開中

 AIアセットの中でも特に重要なのは人財育成だ。dentsu Japan全社員マターとして、2万3000人の社員全員をAI人財にしていくことを目標に掲げる。以前からAI活用に取り組んできた同社だが、データサイエンティストのような一部の専門職に依存する形であったことは否めなかった。その状況が、日本語で扱える生成AIの登場で大きく変わった。

「裾野が一気に広がり、リテラシーに合わせた教育が必要になりました」と児玉氏は話す。プランナーやクリエーター、デザイナーなど専門人財向けに、それぞれに合ったツールとトレーニングコースが提供されている。日本ディープラーニング協会のG検定にも本腰を入れ、すでに1500人以上が受験申し込みをしているという。

 特徴的なのは社内向けのハッカソン(ソフトウェア開発などで成果を競うイベント)の開催だ。グローバルIT企業の協力の下、全世界の7万人近い従業員が自由に参加できる。「毎回400人程度が参加し、日本からも100人くらいが参加しています。アプリを開発する学びの場にもなりますし、新人研修としても効果があります」と児玉氏は語る。この1年間ですでに3回開催されているという。

 一方、毎週開催されているのが生成AIのニュースを紹介する定例ミーティング。生成AIの進化は早い。毎週チェックし、ディスカッションすることで、理解を深め、刺激を得ることができる。「海外の従業員向けに英語版も発信していて、AIを共通言語に8000人以上に読まれています。日本に閉じない人財育成ができています」(児玉氏)。

 さらに独自のグレーディング制度も策定した(図表2)。人財のレベルを「AIベーシック」「AIファシリテーター」「AIマスター」「主席AIマスター」の四つに分け、それぞれ達成者数の目標値を設定している。主席AIマスターでもある児玉氏は「グレーディングに厳密な定義はありませんが、レベルに応じた支援を行い、一人一人のリテラシーを向上させていきます」と話す。

2万3000人の全社員が当たり前のようにAIを活用する世界を目指す図表2 dentsu Japan独自のグレーディング制度
AIツール、テクノロジー、ガバナンスを理解する「AIベーシック」を2万人、その上に「AIファシリテーター」「AIマスター」「主席AIマスター」を段階的に育成していく
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 こうしたAIの使い方の研修では守るべきルールも示される。「ただ、単純に駄目出しをするのではなく、『こうしたらできるのでは』という示唆を与えて、試しにやってもらうということも大切だと考えています」と児玉氏は語る。

 同社ではAIガバナンスのタスクフォースをつくり、法務、コンプライアンス、表現チェックの専門家たちとテクノロジーの専門家による問い合わせの相談窓口となって、利用規約やガバナンスについての議論をするとともに、AI活用のレベルを人財育成計画や人事評価にどう反映させるかも人事部門と話し合っているという。