地域おこし協力隊の卒隊員は語る/
「社会とつながったり、人の役に立ったりしながら、人生の後半を楽しみたかった」


 国内外の金融機関や会計事務所などでビジネスパーソンとしてのキャリアを積みながら、人生100年時代の折り返し地点で立ち止まった人がいる。前職の会計事務所を辞めて地域おこし協力隊に参加し、関係人口創出コーディネーターとして3年間活動した上田直子さんだ。
50代から始める、移住を充実させる「地域おこし協力隊」という選択「地域おこし協力隊」を卒隊した上田直子さん(写真左)。写真右は、空き家利活用プロジェクトの仲間たちと上田さん(中央左)

■うえだ・なおこ/兵庫県明石市出身。東京で約10年金融関係の企業に勤務、夫の転勤により海外へ。帰国後、大阪の会計事務所に勤務。人生の後半戦に差し掛かり、趣味の登山が楽しめる地域に移住を計画。2021年、長野県塩尻市が募集した「地域おこし協力隊」の関係人口創出コーディネーターに採用される。24年に卒隊し、現在も塩尻市で、空き家を活用したシェアハウスの運営を通じて地域貢献を目指している。

「私が協力隊に応募したのは50歳になろうというときでしたが、その4、5年前から夫と『移住をしたいね』と話し合っていました。というのも会社員として東京や大阪で働いていたときは、物質的な豊かさを求める働き方でしたし、仕事の上でやりたかったことはおおむねやってしまった。人生の半分に差し掛かったとき、時間の使い方のバランスを考えなければならないと思いました」


 上田夫妻の趣味は、山登りが好き、自然が好き、アウトドアが好きという点で一致している。

「一つの選択肢として移住がありました。ネックとなったのは移住先で何をするかということ。自然豊かな土地に家を建ててのんびり暮らすだけでは物足りない。地域コミュニティーとつながったり、人の役に立ったりしながら社会に参画している実感が持てることをやってみたかったのです」(上田さん)


 そんなとき、長野県塩尻市が地域おこし協力隊として「関係人口創出コーディネーター」を募集していた。地域外にいて塩尻に関わりたい人と地域を結ぶ接点となる仕事だ。そう聞くと何か厳しい応募要件がありそうだが、上田さんは「全くなかった」と笑う。
 

 上田さんは、21年7月から24年6月まで、塩尻市の会計年度任用職員として採用された。社会保険料などは自己負担だが、週19時間勤務すればよいという条件だったので、「会計事務所の業務をリモートで行う予定の私にはちょうどよかったのです」(上田さん)。
 

 上田さんは、関係人口創出事業「塩尻CxO Lab(シーエックスオーラボ)」(現・塩尻Labに改名)で、「塩尻が抱える課題」と「首都圏のプロ人材」とのマッチングによって課題解決を目指すプログラムの運営を担当し、事業推進という実務を担った。


 苦労したのは、プロ人材と地域側それぞれの想いを酌み取りながらどう協働を推進していくかということ。この調整部分では「今までの社会人経験が生きた」と話す。塩尻のイベントやプロジェクトの情報発信を行うポータルサイト「のりしお(乗り出せ! 塩尻関係人口ポータル)」の立ち上げも行った。


 協力隊のミッションと並行して手掛けてきたのが、空き家を活用したシェアハウスの運営だ。