中小企業のDXで「最初にやるべきこと」とは
諏訪 まず、「目的を設定すること」が何より大切です。「紙を減らす」「業務を見える化する」「機械の稼働率を上げる」などの目的が明確になると、それに対して何ができていないのか、課題が抽出できますから、その対策を立てることができます。
加えて、当社の経験からいうと「成功の秘訣」は三つ挙げられます。一つ目は「従業員の意見を聞き、全員の意思で取り組むこと」。二つ目は「全ての機能を初めから使おうとしないこと」。たくさんあるパッケージソフトの機能を欲張って全部使おうとすると使い切れなくて中途半端になりがちです。
当社が生産管理システムを一新したときも、進捗管理と買掛金・売掛金の管理以外は全て捨てました。スモールスタートし、徐々にステップアップしていくことが大切です。マラソンで42.195キロを走ると思うと考えただけでも挫折しそうですが、1キロごとにゴールを設定すれば頑張れる。それと同じです。
そして、三つ目は「習慣化すること」。人は2週間、同じ時間に同じ行動を取ると習慣化されるそうです。情報共有ツールを導入したときは「朝・昼・晩の1日3回、必ずタブレットを開いて情報を確認すること」を義務付けました。
白石 なるほど。やはり、何を解決すべきなのか、現状をしっかり分析して、方向性を定める。そして、最初にやるべきことを決めたら、少しずつでも前に進めることが重要なのですね。業務を見える化しないとデジタル化できないため、まずは業務を分解して、明確にしていくことが大事なんだと思います。
諏訪 私が最初に行ったのは、業務と業務フローの見直しによる徹底した業務の標準化です。先にお話ししたように、当社の強みが「対応力」なのにもかかわらず、無駄な作業がかなり発生していたからです。
DXの導入方法には、「自社の業務フローに合わせてSEが設計する」「ベースとなるシステムをカスタマイズする」「パッケージソフトを活用する」――という3種類があって、それぞれメリット、デメリットがあります。当社は、安くて簡単に操作ができるという条件に合うパッケージソフトの活用に決めました。
そして、多品種を生産する当社の工場で、リアルタイムの進捗管理ができるように、バーコードを使って簡単に情報が入力できるソフトを探して導入しました。これが当社のDXの第一歩です。
白石 パッケージソフトに合わせて業務を変えると、得てしてベテラン従業員の抵抗に遭ったりします。しかも、システムに慣れないうちは熟練者の作業や勘の方が速かったりしますよね。この点に関してはどうでしたか。
諏訪 とにかく、日報を書かずに済むなど「楽になること」を強調しました。例えば、日報を書くのに10分かかるとして、20人だと1日200分。それが30日になると100時間にもなるわけです。「これってすごい無駄ですよね」と従業員にアピールしたんです。
新しい生産管理システムの必要性や効果については、私やベンダーがプレゼンテーションを実施しました。そのプレゼンに対する質問をアンケートで受け付け、質問に答える形でまたプレゼンを行う。これをしつこく繰り返すと、徐々に質問がなくなってきます。そうすると今度はいろいろと文句が出てくるんですよ。
白石 えっ、文句ですか。