諏訪 はい。「ボタンが多過ぎる」とか、「ここでバックの機能が欲しい」とか。ただ、それに対応してカスタマイズしていくと、「自分たちが関わって作り上げた」という思いもあって、とことん使ってくれるようになるんですね。

 職人たちは「仕事に役立つ」と納得さえすれば、柔軟に新しいものを取り入れます。

 旧システムのシャットダウンは大手企業でも1~3カ月かかります。当社の場合、パソコンの電源も入れたことがない人もいたので、6カ月から1年くらいはかかるだろうと思っていましたが、実際はなんと3カ月で完了しました。

何よりも「トップ」の強い意思が必要だ

白石 お話を伺うと、やはり、トップが陣頭指揮を執り、「DXを進める」と宣言して情報を発信し続け、部下のモチベーションを上げていくことが大切なのだと改めて実感しました。

諏訪 その通りだと思います。トップが明確に方向性を示さなければ、従業員は不安になります。

町工場のダイヤ精機とSMBCグループが考える中小企業「デジタル改革」の核心生産現場で従業員と話す諏訪社長(右)。当時、自ら率先してDXを推進したという

白石 大手企業でも全く同じです。SMBCグループが従来の金融業務の枠にとらわれない新規事業に積極的にチャレンジできているのは、前CEOの太田(純)が「不退転の決意」を持って従業員に向けて「カラを、破ろう。」「突き抜ける勇気。」と常々呼び掛けてきたからです。この方針は24年3月に就任した現CEOの中島も変わりはありません。

 例えば、SMBCグループ内では、これまでにない新規事業を作り出すカルチャーを醸成するための仕組みとして、金融というカラを破ってチャレンジする従業員を支援し、社内ベンチャーの社長に抜てきする「社長製造業」というものがあります。事業のアイデアを出した担当者を、その社内ベンチャーの社長として抜てきしており、今では社長製造業で設立した子会社は10社以上になっています。DXはもちろん、こうした銀行全体のカルチャーを変えていく取り組みをしています。

 こうした変革に対するさまざまな取り組みを通して、行員も会社が変わってきていることを実感しながら、経営層がその取り組みをサポートしてくれる体制が整っていると感じています。トップが率先して推し進めるデジタル化やDXは、企業のカルチャーにも大きく影響すると思います。

諏訪 当社はデジタル化の推進と併せて、若手従業員の採用、育成にも力を入れました。社長に就任した当時は、従業員27人のうち私より年下はわずか3人、6割以上が50代超でした。現在では、生産現場の職人の過半数が30代以下と大幅な若返りを実現できました。

 若手従業員が増えたことで、企業文化や雰囲気も大きく変わりました。繰り返しになりますけれども、まず、トップは「目的」を明確にし、できるところから少しずつでもやっていくことが重要だと思います。

 ちなみに、これは当社の超精密加工のサンプルで階段状に5段階、段差が付いています。触ってみてください。段差が何ミリか、分かりますか。

町工場のダイヤ精機とSMBCグループが考える中小企業「デジタル改革」の核心諏訪社長が提示した超精密加工のサンプル

白石 (指でなぞりながら)一番小さい段差になると、もう分かりませんね。うす~く線はありますが……(笑)。

諏訪 一番大きい段差が1ミリで、一番小さいのが1000分の5ミリ、つまり、5ミクロンです。一般の人が指で感じることができるのは5ミクロンが限界といわれています。

 私たちは1ミクロンの段差を付けることができます。これは機械では絶対にできません。この超精密加工技術を活用した製品を創業以来造り続けているのです。こうした技術をしっかりと継承していかなければ、私たちのような中小企業に将来はありません。

白石 まさに日本が世界に誇る、素晴らしい技術ですね。このような「自社の強み」を、いかにしてデジタル化で伸ばし、将来につなげるか……。それができないと、日本独自の高度な技術もどんどん失われていくのではないかと心配になります。

 デジタル化は目的ではなく、あくまで手段として活用することですが、できるところはなるべくデジタル化して効率化し、付加価値の高い技術の研さんや継承に、より多くの時間や労力を費やせる環境をつくり出すことが大切ですね。

 今日はお話を伺って、SMBCグループとして、引き続き、お客さまのニーズに応えるデジタルサービスの拡充に努めていきたいとの思いが強くなりました。

諏訪 当社も間接業務のデジタル化によって業務を効率化し、持続可能な状態に持っていくことができました。同じようなアプローチで、利益を出せる中小企業はまだまだ多いはずです。今後もぜひ中小企業のDXや変革にお力添えをお願いします。

【プロフィール】
◎諏訪貴子(すわ・たかこ)
ダイヤ精機代表取締役。 1971年東京都大田区生まれ。95年成蹊大学工学部卒業後、ユニシアジェックス(現・日立Astemo)入社。98年創業者の父に請われ、ダイヤ精機に入社するが、経営方針を巡る意見の相違で退社。2004年父の急逝に伴い、同社社長に就任。13年日経ウーマン「2013ウーマン・オブ・ザ・イヤー」大賞受賞。岸田内閣に続き、石破内閣でも「新しい資本主義実現会議」有識者メンバー(現任)。現在、日本郵政、日本テレビホールディングスの社外取締役も務める。
◎白石直樹(しらいし・なおき)
三井住友フィナンシャルグループデジタルソリューション本部執行役員デジタルソリューション本部長。1993年にさくら銀行(現・三井住友銀行)に入行。ホールセール事業部門の企画や営業部署等を経て、2020年より法人デジタルソリューション部長。21年より三井住友フィナンシャルグループ執行役員デジタル戦略部長、24年より現任の執行役員デジタルソリューション本部長。SMBCグループのDX(デジタルトランスフォーメーション)や新規デジタル関連事業開発を推進する。

【参考情報】
SMBCグループのDX情報発信メディア「DX-Link」
ダイヤ精機のホームページ

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