現在の延長線上で
物事を考えない大胆さ

 テクノロジー活用によるダイナミックな現場変革の先進事例があれば教えてください。

西田:バーコードによる商品管理という現場の常識を覆し、画像センシングによるリアルタイム在庫管理を実現した、ある百貨店における食品売り場の変革事例を紹介します。

 一般的に商品の売上管理とそれにひも付く在庫管理はPOSレジが基本ですが、そのためには商品ごとにバーコードが必要です。しかし物産展などの時限的な催事では、バーコードがない銘菓や名産品などを取り扱うことが多々あります。よって商品の発注、売上管理や在庫管理を紙台帳で運用していました。その結果、追加発注に時間がかかり、賞味期限に伴う臨機応変な対応ができないなど、非効率に伴う多くの機会ロスが発生していました。

 そこで現場との対話を経て我々が提案したのが、「画像認識AIによる単品在庫管理」です。撮影した商品画像を登録しておけば、レジで商品をセンシングするだけでAIが商品を識別してくれます。結果、商品一つひとつにバーコードをつけることなく、売上管理とリアルタイム在庫管理ができるようになったのです。

野村:もちろんこの事例のポイントは、テクノロジーを活用した業務効率化ではありません。重要なのは、その背景にある発想の転換です。バーコードのない商品でもリアルタイム在庫管理ができることの意味、それをどう考えるかにあります。

 では、店頭にあるすべての商品がリアルタイムに在庫管理できると何が起こるか。それは店舗を「売り場」だけなく「倉庫」にもできるということです。すなわち店舗とECを直接つなぐことができる状態を意味します。店舗の売上げ=来店顧客の購入という思い込みを取り払い、店舗とECがダイレクトにつながれば、ECの売上げも店舗の売上げに加えることができ、在庫保管やEC対応のためだけの倉庫も削減できる。ウーバーなどのデリバリービジネスと組めば、即日配達も可能です。

西田:顧客にとっては来店しなければ買うことのできなかった商品を購入できる選択肢が増え、店舗にとっては新たな売上げを取り込むことができる。顧客と店舗の双方にメリットがあるだけでなく、新たな顧客ニーズの発見、それに伴う新たな商品・サービスの開発につながることも考えられます。このような発想の転換なくしてダイナミックな変革はできないし、ましてや未来の商品や事業を生み出すことはできません。バリューチェーン変革まで成し遂げるには、現在の延長線上で物事を考えない大胆さが必要です。

 テクノロジーを変革の触媒とした発想の転換が重要になるのですね。

野村:テクノロジーは変革に不可欠ですが、テクノロジーを鵜呑みにして、とにかくDXを進めようという風潮があるのも事実です。それでは真の変革は実現しません。あくまでテクノロジーは道具ですから、最も大切なのはいかに業務を変革するかということです。そこに発想の転換が不可欠なのです。

西田:テクノロジーによって人間ができないことができるからこそ、これまでの延長線上で考えることなく、まったく新しいプロセスを創造する必要があります。プロセスレベルで変革しなければ、結局は現状業務の省力化に留まってしまいます。