外部ステークホルダーを
どう巻き込むか

 バリューチェーン変革に発想の転換が不可欠ならば、外部ステークホルダーを巻き込むことも必要になるのではないでしょうか。

野村:その通りです。これまで社内でさんざん取り組んできたカイゼン(改善)ではなく、外部ステークホルダーとの関係性を変え、彼らを巻き込んだバリューチェーン変革を進めていかなければ、抜本的な生産性や提供価値の向上が見込めない状況となっています。

西田:小売業における「セルフレジ」は、外部ステークホルダーを巻き込んだプロセス変革の好事例でしょう。近年、人手不足が深刻化したスーパーマーケットではセルフレジの導入が加速していますが、これは顧客を自社のオペレーションプロセスに組み込む、つまり顧客を巻き込んだバリューチェーン変革です。

 たとえば営業の現場においても、外部ステークホルダーを巻き込んだプロセス変革は可能です。たとえば顧客に高齢者が多い現場の場合、「スマホが使えない」という発想から抜け出せないために、FAXなどのアナログな手法に伴う付加価値の低い社内業務が残ってしまい、結果として人手不足を招いています。しかしここで発想を転換し、「顧客から注文を取る」のではなく、「顧客に注文の仕方を教える」ことにシフトする。これが業務プロセスの再設計や、人間の役割の再定義につながります。

野村:多くの企業は、これまでの成功体験があるからこそ存在しているわけですが、その成功体験が変革の足かせになりがちです。すなわち「成功のジレンマ」に遭遇してしまう。デフレからインフレへの転換によってこれまでの成功体験が通用しなくなっているからこそ、変革の自己完結は非常に難しいのが現実です。ゆえに、変革に「外部性」をいかに取り入れるかがカギを握ります。

 ちなみに『企業成長の理論【第3版】』(ダイヤモンド社、2010年)の著者として知られる経済学者のエディス・ペンローズは、外部性=未利用資源だと説いています。バリューチェーン上の外部を自社資源として活用すべきということですが、その象徴たるものが顧客です。先に西田が指摘したように、小売業におけるセルフレジはまさに顧客という外部の未利用資源を取り込んだバリューチェーン変革だと考えることができます。

西田:ただし、こうした変革に必要な発想の転換は、その業界やその現場で長く仕事をすればするほどできないものです。これが変革の自己完結を難しくしています。ゆえに、いかに「よそ者」の知恵を取り入れるかがポイントとなります。よそ者こそすなわち外部性であり、それは顧客やビジネスパートナー、異業種企業、場合によっては競合他社かもしれません。私たちコンサルタントも外部性の一部といえるでしょう。